〜頑張る男〜

　私は小冊子に付いていたコンドームをポケットに忍ばせた。ひょ
っとしたら一周している間に何か言い事があるかもしれない！そん
な事を考えニヤニヤしながら晩飯の買い出しへと出掛けた。

スーパーに到着し、いつもならキャベツ＆ベーコン炒めスパゲティ
（美味い！）の食材を買うか、ホールトマトの缶詰＆ベーコン炒め
（超美味い！）の食材を買うか悩むところだが、なんせラウンド初
日であり、私も聡も結構疲れていたので缶詰に入ったミートソース
を買う事にした。

YHAに戻りキッチンで麺をアルデンテに茹で、フライパンに缶詰の
ミートソースをぶちまけた。共同の皿とフォークを拝借して、皿に
綺麗に盛り付けた。

これを食べて今日の疲れを綺麗さっぱり忘れれば、明日からの旅も
弾むもんだ。

聡、志「ではいただきまーす」

フォークに麺とミートソースを絡めて口に運んだ。疲れを綺麗さっ
ぱり忘れるはずだった。その時のミートソースの味は今でも忘れら
れない。ミートソースは腐ってるのかと思うくらい、口の中で異臭
を放ち、ミートなんてどこにも見当たらず、ペシャペシャの液状で
あった。とてもとても不味かった。

　不快感を口と胃袋に味わいながらYHAの庭に出ると、東洋人男性
が煙草を吸っていた。こちらが軽く会釈をすると、彼も日本人独特
の”首だけひょいと前に出す会釈”を返したので日本人である事が
分った。日本人は話しをしなくても態度や仕草で分かる事が多い。

志「こんばんは、ラウンド中ですか？」
男「そうです。シドニーから自転車でブリスベンに行く途中です」
志「自転車で！ここまでどれくらいかかりましたか？」
男「そうですね〜。のんびり来たので１週間くらいですかね」
志「い！！一週間！！！」

たった１日で大して疲れも知らずにここまで私たちを運んでくれる
車ってすごい！そう思ったと同時に、自分以上に頑張っている彼を
見て、自分が情けなく、彼をうらやましく感じた。

男「ここまでは何で来たんですか？」
志「あの…その…車です。しかも１日で…イヤ…恥ずかしい。」
男「やっぱり車だと速いんですね。昨日までずっと天気が悪かった
　んですよ。まともに泊れる場所なんて今まで無かったから、日が
　暮れたら、適当な所でテントを張って寝てました。やっぱり屋根
　がある所に泊るって良いですね」

彼の浅黒い顔とボサボサの髪、よれよれのＴシャツはそれを充分証
明していた。

志「ブリスベンからはどうするんですか？」
男「そうですね。一応一周しようと思ってるんですけど、どうする
　か全然考えてないです。ブリスベンで考えますよ」

全然考えていない。うーん。これこそ旅の醍醐味！明日は明日の風
が吹くだ。

男「大体１ヶ月間くらいでブリスベンに着こうと思ってます」

車だったらのんびり行っても明後日にはブリスベンに到着できるだ
ろう。頑張る男がここにいる。

志「今までトラブルとかはなかったですか？」
男「トラブルは特に無かったんですけど、テントの下にひくマット
　を持ってこなかったんですよ。寝る時はビニールシートを一枚だ
　け下にひいて寝てるんで、寒いったらありゃしないですよ」
志「おお！それならば丁度良い。僕は３枚マット持ってますよ。２
　人で周ってるんで１枚余るからそれをあげますよ」
男「おお！本当ですか！ありがとうございます」

私は車のトランクに入っているマットを引っ張り出して、彼に渡し
た。その後私たちは談笑して自分の部屋へと戻った。
彼とはその後会っていない。無事にブリスベンに着く事は出来たの
だろうか？彼ならば心配はないのだが。

　その後、私と聡は栄里に国際電話を掛け、出発した事を伝えた。

これがPort MacquaireのYHAのロビーです。ここはまあ宿泊者がの
んびりとくつろぐ場所になっています。どこのYHAでもテレビは置
いてあり、食後にダラダラとテレビを見てる光景がどこでも見られ
ました。そういえばYHAのテレビでよくテレタビーズを見たっけな。