〜オーストラリアで２番目くらいに運がなかった日〜Ｐａｒｔ１
目を覚まして欠伸を一発。寝ぼけた体を思いきり伸ばして、体に
喝を入れる。隣のベットにいる聡は、まだ寝ているようだ。他の宿
泊者達も寝ているようなので、静かにドアを開けて、新鮮な朝の空
気を吸いに外へ出た。
今日もとても良い天気だ。昇ったばかりの太陽の日差しが、斜め
上から顔を照らし、まだ眠っている体を暖かく起してくれる。もう
一度大きく伸びをして、壊れかけのサンダルを引きづりながら、ズ
ルリズルリと朝の日課である車の点検へと向った。
♪フラッシュ！あ〜あ〜一斉ので揉めます！
ご機嫌で鼻歌を歌いながら、ＹＨＡの正面玄関前に停めておいた
車の前に行った。
「あれ…？」
車の前で呆然と立尽くし、自分の目を疑った。車の左後部座席の
窓が全開になっている。「やばい！」車の中には聡のトランクや、
ＣＤプレイヤーが入ったままだ。いくら治安の良いオーストラリア
でも、一晩中窓を開けっ放しにしては、何か盗んでくれと言ってい
るようなものだ。
何か盗まれていないか確認するため車に近づくと、ガラスとコンク
リートが擦れる「シジャリ」という音が足元で聞こえた。車の内と
外に粉々に砕けたガラスが飛び散っていた。
「やられた…」
窓を開けっぱなしで駐車したのではなかった。何ものかの手によ
って、ガラスが叩き割られていたのだ。瓶か何かが近くで割れたの
かも、と思ったりしたが駄目だった。どう見ても窓ガラスが粉々に
なっている。
ガラスに気をつけながら中を覗くと、前部座席に置いてあったＣ
Ｄプレイヤーが無くなっていた。そして聡のトランクが少しだけ開
いている。聡は恐らく鍵を掛けていなかったのだろう。トランクの
中の物が盗まれたかもしれない。
それだけ確認すると、半ば放心状態で聡のいるＹＨＡへと歩き出
した。想像しなかった現実を目の当たりにして、事を冷静に受け入
れる頭と、夢に置き換えようとしている頭とがあった。人生何度目
かのこの感覚。前回は忘れもしない（と言いつつ手帳を見かえす）
１９９８年０５月１６日のことだった。
ＹＨＡに戻ると、ちょうど聡が部屋から出てくるところだった。
聡「ういっす〜今日も良い天気だね〜。絶好のドライブ日和だ。も
う車の方やってくれたの？」
志「落ち着いて聞いてくださいね。実はその車の事なんですけど、
とうとうやられちゃいましたよ。後ろの窓ガラスを割られてＣ
Ｄプレイヤーとか盗られちゃいましたよ」
聡「またまた〜。真剣な顔して冗談言うんだから〜」
向きを変え歩き出した私の後を、聡が付いて来た。なぜだろう。
疑う聡に現実を見せられると思うと、少しうれしかった。そして車
の前で、聡も私と同じように呆然と立尽くした。聡は自分のトラン
クが少し開いているのを見て、中身の確認をはじめた。
聡「ギャース！ギャース！」
志「どうですか。何か無くなっていますか？」
聡「ナイヨ、ヤバイヨ」（出川哲郎）
志「何が無いんですか一体！！」
聡「あれもこれも無くなっている！あるのは着替えだけだ！」
志「ギャース！ギャース！」
聡はトランクの中をちゃんと確認するため、ＹＨＡに引き返した。
−盗られたものリスト−
１．ＣＤプレイヤー（聡の所有物）
２．ＣＤ２０枚、内訳は奥田民生、森高千里、ＰＵＦＦＹ等など
（聡の所有物。志帆のＣＤは一枚も盗まれず）
３．人からもらったベネトンのトレーナー（聡の所有物）
４．ダンガリーのシャツ（聡の所有物）
５．未使用フィルム１０本（聡の所有物）
６．単三電池３０本（聡の所有物）
７．体験ダイビングのビデオ（聡の所有物）
８．２０００円のダサいサングラス（志帆所有物）
良かった。私の被害はサングラスだけで済んだ。それもいらなくて
いらなくて仕方がなかった品をわざわざ持って行ってくれた。私の
トランクを車のトランクに入れておいたのが幸いしたようだ。横目
で聡の方をチラリと見ると、彼はがっくりと肩を落としていた。
しかしがっくりきている気持ちは、私も同じだ。また余計な出費
が発生してしまったのだ。ガラス代は一体いくらするのだろう。実
は私の所持金はケアンズで底を突いてしまい、聡からＡ＄１０００
を借りていたのだ。借金だけが増えて行く。
二人で車の前で呆然と立尽くしていた。これから何をすべきだろ
う。警察に行くべきか、ガラスの飛び散った車内の掃除か、もしく
は割れたガラスを入れに行った方が良いのだろうか。
呆然としながら考えていると、ワイパー挟まっている一枚の紙に目
がいった。ガンガンに照り付ける太陽の下で、腕から首筋にかけて
鳥肌が立った。今までワイパーに紙が挟まっていて、ろくな事が無
かった。悲劇は繰り返されるのだろうか。
そっと紙に手を伸ばすと、警察からのレポートだった。
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