〜オーストラリアで２番目くらいに運がなかった日〜Ｐａｒｔ２

　警察からのレポートを手に取りざっと目を通した。窓ガラスを割
られた上に駐車違反の切符だったらどうしようと、オドオドしてい
たのだが、こんな事が書かれていた。

「本日午前４時頃に、被害後のあなたの車を発見しました。このレ
ポートを持って警察署の方まで来てください」

　なるほど。警察は私よりも先に、事件に気が付いていたわけだ。
そしてこのレポートを挟んだのか。

志「聡。見てくださいよ、この警察からのレポートを」
聡「警察？もしかしてまた駐車違反でパクられたの？」
志「違いますよ（苦笑）。”窓ガラスが割れてまっせ”という報告
　　です」
聡「ふーん。なんだろうね。警察に行ったら何か解決するのかな。
　　あ、ひょっとして現行犯で、犯人逮捕してたなんてありえるか
　　もよ」
志「おお！そうしたら盗まれた物が全部戻ってくるかもしれません
　　ね！」
聡「そうしたら森高千里の最高のアルバムSTEP BY STEP（気分爽快、
　　若さの秘訣、星の王子様などが入ってる）がまた聞けるかもし
　　れない！うひょー最高！！」
志「そ・そうですね。なはははは…（苦笑）」

　警察署の場所は、昨日の買い出しの時に何気なく見ていて知って
いた。私たちは、車中に犯人の手がかりが残っているかもしれない
と、短い距離だが車に乗って警察署に向った。

聡「取り敢えずさ〜。盗まれた物が戻らなくても、盗難届けだけで
　　も発行してもらわないとね」
志「そうですね。僕のはサングラスだけだから別にいらないけど、
　　聡のは結構な被害になりますからね。被害額どれくらいになり
　　ますか？」
聡「そうだな。１０万円くらいじゃないかな。ＣＤ２０枚で６万円
　　近くになるからね。それを盗難保険で埋め合わせしよう」

　警察署の前に到着し、私一人で中に入って行った。その間、聡は
盗まれた物の詳細をまとめていた。正面の階段を上り、大きなガラ
スドアを開けて中に入ると、受付に警察官が１人いるだけで閑散と
していた。まぁ大賑わいでは困ってしまうのだが。

志「すみません。今日の夜中に車の窓ガラスを割られて、車内の物
　　のいくつかが盗まれたんですけども。そしてワイパーにこのレ
　　ポートが挟まっていました」
警「どれレポートを見せてごらん。ああこの事件か。私たちが見た
　　時には、既にガラスが割られていたよ」
志「そうですか。じゃあ犯人は捕まっていないんですね」
警「ああ。捕まっていないよ」
志「犯人が捕まる可能性はあるんですか？」
警「それは難しいだろうね」
志「そうですか…。あの…。何かの役に立つかもと思って車に乗っ
　　て来たんですけど」
警「それが何か？」
志「いいえ…」
警「他に用事はありますか？」
志「あ、盗難証明書を頂きたいんですけど」
警「ではこの用紙に住所、氏名、盗まれた物とその特長、金額を書
　　いてください」

　私は聡のいる車に戻り、警察とのやり取りを伝えた後、今度は二
人で署内に入った。聡は警察官と話しをしながら盗まれた物のリス
トを埋めていく。

警「これで盗まれた物は全部かい？」
聡「そうです」
警「それじゃあ。これで終わりだ。帰っても良いよ」
志「え…。終わりですか」
警「他に何かありますか？」
志「いいえ。ありがとう」

　私たちは釈然としないまま、警察署の階段を降りた。事務的な手
続きをしただけで終ってしまった。犯人を捕まえるための、現場検
証はしないのだろうか。この後に聞き込みをするのだろうか？

それらの事を言いたかったが、私の中１英語では伝える自信がなか
った。もっとも現場検証や聞き込み等の英単語を、私は知らない。

　オーストラリアは凶悪犯罪は少ないものの、日本と比べるとコソ
泥が多い国だ。私の知り合いでも、リュックに入れておいた財布を、
すられたり、閑散とした街を１人で歩いていた女の子が、車に乗っ
て近づいて来た男に突き飛ばされて、鞄を奪われたりしている。

今回の事件も、オーストラリアの警察にしてみれば、その手の事件
の一つにすぎないのだろう。

志「なんかあっという間に終りましたね」
聡「うん。海外の警察なんてこんなものなんだろうな。人が死なな
　　いと何もしてくれないのかもしれないね」
志「うん」
聡「けどあれだね。俺が盗られた物を見返して見ると、盗った奴に
　　とって価値ある物ってほとんど無いんだよね。貴重品なんてせ
　　いぜいＣＤウォークマンくらいの物でさ、ＣＤのほとんどは日
　　本語の曲だし、洋服だって言わばお古なんだからさ」
志「そうですね。別の場所で売って、お金に替えるのはちょっと難
　　しそうですね。結構自分で着たりしているかもしれませんよ」
聡「ＣＤウォークマン片手に、ベネトンのシャツ着てたりしてな」
志「そしてたどたどしい日本語で、森高千里を歌ってたら間違いな
　　く犯人ですよ」
聡「♪飲もう〜。今日はトコトン盛り上がるぞ〜。とか言ってな」

　私たちは車内に散ったガラスを掃除するため、ガソリンスタンド
へと向った。

　元々汚い車内がガラス飛び散って更に汚くなってしまった。この
後掃除をしたんだけど、クッションの隙間とかにガラスが入ったり
していて、なかなか奇麗にならなかった。ったく！