〜車の修理点検その５〜（アリススプリングスにて）

聡「おい！対向車線にはみ出しているぞ！」

　オンボロ車がセンターラインを超えて、対向車なんて来ないよ車
線を走っている。ハンドルを握るはずの私の両手は、太股の上に置
かれていた。にもかかわらず、車はあっという間に、元いた車線に
戻って来た。

聡「一体何やってるんだよ！」
志「いや〜。この間後ろのタイヤを一本だけ換えてから、車が勝手
　に左に曲がるようになったじゃないですか。ハンドルを持ち続け
　るのに飽きてきたから、車をわざと右に曲げて、勝手に左に戻っ
　てくる遊びをやっていたんですよ」
聡「ったく！クソガキ！やるのは良いけど、対向車線を見てからや
　ってくれよな」

　しかし午後になって運転を交代すると、聡もその遊びの虜になっ
ていた。

聡「うほほ！すげぇー、ハンドルから手を離すとどんどん左に寄っ
　ていくよ！」
志「憧れている俺の真似をするのは勝手ですけど、気を付けてやっ
　てくださいよ」
聡「ほらほらちょっと見て！何秒間手を離してられるかごっこやる
　からさ！い〜ち、にぃ〜い、さ〜ん、おっと！危ねぇ危ねぇ。志
　帆じゃ３秒も手を離せないだろう！根性無しだからな！あはあは
　あは！」
志「ったくクソオヤジめ！」

　私たちがアリス・スプリングスに到着したのは、午後を少し過ぎ
た頃だった。破壊された窓ガラスを入れてもらいに、２日前にお世
話になった車屋に真っ先に向ったが、この日は残念ながら金曜日。

　英会話学校に通っている時に先生から聞いた話しなのだが、オー
ストラリアの会社は週休２日は当たり前。その上金曜日の午後も、
仕事なんかほとんどしないとの事だった。

実際その学校も金曜日の午後の授業は無かったし、シドニーで一番
の繁華街も、稼ぎ時であると思われる土日に閉店している店が多か
った。

　そして金曜日の午後に到着した私たちが車屋に行ってみると、店
のシャッターは半分ほど閉められていた。嫌な予感を重々しく感じ
ながらシャッターの中を覗くと、仲間たちと車座になって高らかに
馬鹿笑いを上げる、ほろ酔い気分の車屋の主人がいた。ちくしょう
、昼間っからビール飲みやがって羨ましい！

志「おぃ〜っす！」
オ「おーっす！げふぅ…」
志「声が小さい！もういっちょおぃ〜っす！」
オ「おーっす！！！げふぅ…」
志「おい、おっちゃん。俺達の事覚えてるげふぅ？」
オ「うぃ〜？あ〜覚えてるよ。窓ガラスを割られた日本人だな」
志「そうだ。それで今日が窓ガラスがアデレードから到着する約束
　の日だから、取りに来たんだよ」
オ「おろ！そうだったか。そう言えば窓ガラスまだ届いていないぞ。
　ちょっと電話で確認して見るから待っててくれ」

　よっこらしょと店の主人は立ち上がると、壁に掛けてある電話で
何やら笑顔で話し始めた。そして受話器を置くと満面の笑みで、私
たちの方へと近寄ってきた。

オ「今よ〜。友人に電話したらさ、今日の午前中にアデレードを出
　発したらしいんだ。だから窓ガラスが到着するのは明日の午前中
　だってさ」

　信じて良いのだろうか？否、信じてはいけない。「じゃあ！明日
水道工事に伺いますから！」なんて言っておいて、平気で一週間遅
れてやってくる水道局のオヤジ。そしてそれがまかり通るオースト
ラリア。そしてこの店の主人は酔っ払っている。信じて良い訳が無
い。

しかし私たちがここを出発するのは、どちらにせよ明日の午前中だ。
それまでは待ってやるか。

志「分かった。じゃあ明日の午前中にまた来るから、よろしく頼む
　よ。けど明日は土曜日だけど店はやってるのかい？」
オ「ああ！大丈夫だよ。君たちのためだけに特別に開けておくよ」
志「そうだ。それと前のタイヤを一本だけ交換してもらいたいんだ
　けど。酔っ払ってても出来るかい？」
オ「タイヤ交換は俺の弟子にやらせるから大丈夫だ」

　主人は弟子と呼ばれる男にタイヤを交換させると、私たちからＡ
＄１００を受け取った。

志「じゃあ明日よろしく頼むよ」
聡「げふぅ…」
志「あんたじゃないがな！」

　聡に軽い突っ込みを入れて、私たちは今日の宿探しへと出かけた。
タイヤ交換をしたため、真っ直ぐ進むようになった車に乗って。

　車を運転している聡です。舌を出して運転しているのは、本人曰
く「エロティシズムが最高潮に達すると出てくる」との事。

早速お断りしておくが、本人曰くと書いておきながら、本人には何
も聞いていません。はっきり言って嘘なんです。エロティシズムっ
て打ちたかっただけなんです。
一つ冷静に言えるのは、背景のエアーズ・ロックが台無しですね。