〜インドへの憧れ〜
私たちは車屋を後にして、今日の宿を探す事にした。今日の宿探
しは慎重に行なう必要がある。お世辞にも治安が良いとはいえない
アリス・スプリングスだ。敷地内に駐車場があるＹＨＡかバックパ
ッカーを見つけなくてはいけない。２日前のような災難はもうごめ
んだ。
アリス・スプリングスはそこそこ大きな街なので、宿を探すのに
は困らない。私たちは運良く一件目で、駐車場付きのバックパッカ
ーを見つけて、早速荷物を部屋に運び込んだ。部屋には２段ベット
が３つあったが、既に先客が４人いて部屋は定員となった。先客の
うち２人は日本人だった。
私たちは宿の中庭で少し早めの夕食をとって、ここ最近の定番に
なっているビール（ＸＸＸＸ ＧＯＬＤ）を楽しんでいた。すると
部屋の中から、先ほどの日本人が出てきた。
志「こんちは〜」
男「こんにちは〜」
志「ここは長いんですか？」
男「そうですね、四日くらいいますけど、明日の午後には出発しま
す」
志「へー。俺達は、今着いて明日の午前中には出発だよ〜」
ここらへんの話しは、旅行者通しの定番だ。どれくらいオースト
ラリアにいるのか、日本ではどこに住んでいるのか、これからどこ
にいくのかとか。そしてもう一つの定番。
志「今まで海外はどこに行ったの？」
男「３年くらい前なんですけど、インドに行ってましたよ」
志「イ・インド！」
インド。知ってるようで全然知らない国だ。インドのイメージと
いえば、カレー、ターバン、物乞いが多い。そんなのしか浮かばな
い。
志「インドって一体何があるの？」
男「インドといえば、カレー、ターバン、物乞いが多いって所です
かね」
志「ふーん。やっぱりそうなんだ」
なんだ想像通りの国なんだ。それプラス汚くて臭い国なんだろう
な。あまり行ってみたい国ではない。私がそっけない顔をしている
と、男は少し笑みを浮かべながら一言付け加えた。
男「それとですね。あそこはトラブルだらけでデンジャラスな国な
んですよ」
志「デンジャラス？」
男「ええ、僕は実際に被害に遭ったんですけど、バックパッカーで
監禁された事があるんですよ」
志「監禁！なんでまた！」
男「インド人って嘘吐きばかりなんですよ。お釣をごまかしたり、
最初言ってたのと違う値段を後から要求してきたりしてね。そん
なのばっかり。だから宿に泊る時は、値段とその人のサインを紙
に書いてもらってから、泊まるようにしていたんです。
それでその宿でも同じように、一泊６０ルピー（約２４０円）と
サインを書いてもらったんです。そして次の日の朝になって、お
金を払おうとしたら、６０ルピーじゃないって言うんですよ。こ
の宿は６００ルピーだ、６０ルピーじゃない。６０ルピーでこん
な良い所に泊まれるわけないだろうってね。
けど僕はそういう時のための、書いてもらった紙を見せたんです
よ。そしたらそんなものは知らん！の一点張り。僕も頭にきて絶
対に払わないって言ったら、そのまま力ずくで小さな部屋に押し
込まれて、外から鍵をかけられちゃいましてね。
その後はドア越しに払え！払わない！の押し問答。警察に行く行
かないとか話してね。で、なんやかんやで６時間くらい過ぎちゃ
って、疲れちゃったから、２００ルピーを払うという事で解放し
てもらいましたよ」
志「それってよくある事なの？」
男「多くはないけど珍しい事ではないと思いますよ。一番多い手口
がですね。道を歩いてると、インド人が僕の靴めがけて、牛の糞
を投げてくるんですよ。すると投げた奴が謝りながら、靴を奇麗
に拭いてくれるんですよ。それで金よこせ！ってね。
なんでおまえに金を上げなきゃいけないんだ！って言うと、靴を
拭いてやっただろう！とか言ってくるんですよ。もちろんそんな
のには金払わないですけどね。けど本当にあそこは最悪。オース
トラリアは天国ですよ」
なんて〜嫌な国なんだろう。インドは貧しい国だから、金持ち日
本人から金を巻き上げて喜んでいるのだろうか。
男「アルマゲドンって映画観ました？」
志「いやまだ観てないけど」
男「あの映画の中で、タージ・マハールっていうインドの世界遺産
が隕石で破壊されるシーンがあるんですよ。あれを観た時は胸が
スッとしましたよ」
日本にいた頃。オーストラリアにはどんなカルチャーショックが
あるのだろうと、心を躍らせていた。しかしいざ来てみたら、ＴＶ
や映画で観たそのままがそこにあった。ここにはもう刺激は無いの
だろうか？
インドか…
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