〜車の修理点検その６〜（アリス・スプリングスにて）

　翌朝私たちは、窓ガラスを入れてもらうために、車屋へと向った。
アデレードからわざわざ運ばせるとの事だったが、私は全然期待し
ていなかった。なんせオージーはエエ加減である。

　私がホームスティをしていた頃、日本では考えられないような出
来事に遭遇した事がある。私は毎日バスで、英語学校に通学してい
たのだが、その日も片道２０分かかるバスに乗り込んだ。

その時の乗客は私一人だけ。バスに乗ると、早速気の良い運転手が
話し掛けてきた。

オ「おはよう。君は日本人かい？」
志「そうだよ」
オ「君はいつもこのバスに乗っているのかい？」
志「そうだね。毎朝バスで学校に行ってるんだよ」
オ「へー。そうなんだ…」

　それだけ話すとバスは交差点で停車した。信号機は無く、車が一
台も走っていない交差点で、バスは３０秒ほど停車していた。なに
か不味い事でも言ったのかと不安になった。この運転手は日本人が
大嫌いなのではないかと。

　しかし彼は、愛敬ある顔に苦笑いを浮かべながら、こちらに振り
向きこう言った

オ「この交差点はどっちに行けばいいんだい？」

　自分の耳を疑ってしまった。よだれがダクダクと流れるくらい、
開いた口がふさがらなかった。目の色が灰色になるくらい白黒させ
てしまった。異常な反応をする私を見ながら、彼は返答を待ってい
る。

志「右だよ。右…」
オ「ありがとう。次の交差点は？」
志「ここはまっすぐ。そして次は左だ」

　てな具合に、地元のオージが乗り込むまで、運転手に道案内しな
がら、学校に行った事がある。なんともエエ加減でお気楽な、運転
手とバス会社だ。いいな〜オーストラリアって。

　私たちが車屋の前に到着すると、昨日と同じようにシャッターが
半分だけ開いていた。それは私たちが来るから、そうしておいてく
れたのだろうか？それとも、昨日からずっと開けっ放しなのだろう
か？

中に入ると作業場は真っ暗になっており、隅っこの椅子に車屋の主
人が座っていた。

志「おぃ〜っす！」
オ「…」
志「声が小さい！もういっちょおぃ〜っす！」
オ「うるせぇ…」

　彼は明らかに機嫌が悪かった。二日酔いなのだろうか？土曜日に
店を開けている事に腹を立てているのだろうか？

志「おっちゃん。全然期待してないんだけど窓ガラスは届いた？」
オ「ああ…。その事だけどな窓ガラスは今シドニーにあるそうだ」
志「シドニー？アデレードを出発した窓ガラスが、なんで全然違う
　方向のシドニーにあるんだよ」
オ「うるさい。とにかく窓ガラスはシドニーにあるんだよ」

　おっちゃんは嘘を付いているのだろうか？それとも友人がエエ加
減だったのだろうか？どちらにせよ、日本では考えられない返答だ。
私の口からよだれが溢れ出す。

志「おっちゃん。じゃあ窓ガラスはもういらないから、前払いした
　金を返してくれよ」
オ「ああ…。ほらよ。確かに返したぜ」

聡「なんだよ酔っ払いが！こちとら４日も待ったのによ！てきぱき
　働けよ！」
志「こちとら客だぞ！日本人をなめるなよ！サービスってものをも
　う少し考えな！」

　私と聡は、考えられる限りの悪態をつきまくった。車に乗り込ん
で、おっちゃんから遠く離れた場所で…。だって聞かれて殴られた
ら嫌だもん。

んぼぼぼぼぼ・ばたたたたた

　この音ともしばらく付き合わなくては、いけなくなってしまった。

　アリス・スプリングスからテナントクリークに行く途中で、また
デビルズマーブルを拝みました。いや〜丸いね、あんた！