〜怒る聡〜

　夕方前に到着したマタランカは、地震がほとんど無いオーストラ
リアには珍しく、温泉が湧いている。ここはうれし恥かし混浴にな
っているが全裸禁止で、場所によっては足の届かない場所もあった
りする。

そのため神の国（失言）日本にある温泉とは趣きが違うかもしれな
い。温水プールという感じだろうか。お湯の温度も日本人好みの４
０度前後とはいかず温めだが、お湯に身を委ねるとやはり気持ちが
良い。旅の疲れが癒され、思わず地響きのような

聡、志「あ゛〜」

　という声が出してしまう。

　思う存分水分を吸収し、ずり落ちそうになるトランクスを片手で
押さえながら（聡はお尻丸出しで悠々と歩いている）、空を見上げ
ると太陽が西の空を赤く染め始めていた。

だがそれとは対照的に、東の空から黒い集団が空全体を覆い隠そう
としている。集団の正体は”フルーツ・バット”と呼ばれるコウモ
リだ。羽を広げた大きさが５０ｃｍ以上あるコウモリが、１万匹以
上も空を舞う。そのためマタランカは、太陽が沈むのよりも早く夜
がやってくる。

聡「か・感動だ〜」

　聡は号泣しながら、その場限りのリップサービスをしていたが、
私はこの光景を覚めた目で見ていた。これはＴＶで見たことのある
光景だ。それを追体験しているに過ぎない。なんでもかんでもＴＶ
で経験してしまうのも考えものだ。と言うのは今考えた。

　今晩泊まるＹＨＡに戻ると、日本人の女の子２人組みに出会った。
彼女達の名前は小林（仇名コバ）と由加里。普通なら「男女２ｖｓ
２で出会ったら、何かあるだろう！」と考えてしまうが、そんな事
はまったく無かった。感じさせるキャラクタでは無かった。

それというのもコバのヤンチャぶりが凄まじい。彼女は初対面の時
こそ大人しかったのだが、一緒に夕食を食べる事になり、ビールを
飲み始めたら調子に乗り、毒霧を噴きまくっていた。

聡「俺達は千葉県出身なんだけど、どこから来たの？」
コ「そんな事聞いてどうしようって言うのよ！私の家を探してなん
　か卑らしい事をするつもりなんじゃないの！このエロじじぃ！」

当時の聡は３６歳コバが２２歳（確か）。コバは自分で言ったエロ
じじぃと言う単語が気に入ったらしく、両手でどんどんと机を叩き
ながら「エロじじぃ！あそれ！エロじじぃ！」とリズムをとって、
はしゃいでいた。

聡以外の３人はそれを聞いて、「ケタケタ」と笑っていたが、聡は
その歌がお気に召さなかったらしく、コバをとっちめてやろうと、
席を立ちあがった。

聡の正面に座っていたコバも、それにいち早く気が付き立ち上がる。
２人は「キャーキャー」言いながら、テーブルの周りを追いかけっ
こ。とても仲良しの彼等の声は、いつまでもいつまでもマタランカ
の静かな夜にこだました。

　その夜ベットに横になりながら、聡は私にこう打ち明けた。

聡「俺さぁ〜。コバを最初に見た時、ちょっと可愛いかな？と思っ
　たんだけどさ。すごい勘違いをしていたみたいだよ」

　私はそれに対してノーコメントを決め込んでいた。私の心の中で、
聡の「可愛い！」という言葉があてにならない疑惑は、確信に変わ
っていった。

　黒くくちゅくちゅってなってるのがフルーツ・バットです。一本
の木に１００匹近くとまってたりするから、一万匹以上余裕でいる
かも。
　そして下の写真が左から、志帆、由加里、コバ、聡です。何枚か
コバの写真を撮ったのですが全て笑っていなかった。コバよ…