〜エリ・スカイウォーカー〜
この日の朝食であるパンとハムエッグとウインナーをぱくん！ず
るっ！むしゃ！と食べ終ると、好奇心旺盛で遊びたい盛りの栄里が
とんでもない事を言い出した。
栄「私、スカイダイビングがやりたい！」
私は落ちる時の腰がふわっと持ち上がり、体全体がぐんっと落ち
ていくあの感覚が大嫌いだ。もちろん遊園地の絶叫マシーンなんか
大嫌いだし、車に乗って急な下り坂を下りる時のふわっという感じ
も大嫌いだ。
そんな私がスカイダイビングなんて出来るわけが無いし、やりたい
とも思わない。スカイダイビングなんてこの世で一番嫌いな単語だ。
タイピングするだけで虫唾が走る。
私は真っ正面にいる栄里を目の前に、鉄壁の無視を決め込んでい
たのだが、少し離れた所にいた聡が栄里のまいた餌に恐る恐る手を
出した。
聡「そうだね〜。ダーウィンでやればすごく安くできるし、俺も一
度くらいはやってみたいな〜と思っていたんだよ」
栄「でしょ〜、私もそう思ってたのよ。ここで飛ばなきゃ来た意味
が無い！ってくらいにね」
話しがまずい方向に流れてきたな〜と思い、ソワソワしていると
栄里が当然の如く聞いてきた。
栄「志帆はどうする？」
何事も経験だ。やれるチャンスがあるなら、何でもやっておいた
方が良い。恐いのは一瞬だけだ。まさか地面に激突なんてことはな
いだろう。けど万が一という事はある。高さ３０００ｍから落ちた
ら、漫画のように人型の穴が地面にできるのだろうか。
恐い。ここで私だけ断ったらビビリと思われてしまう。あーどうし
よう。男の意地を見せるべきなのだろうか。自分の心に正直である
べきだろうか。色々な考えが頭の中を駆け巡る。
栄里は小首をかしげて私の目を見ていた。彼女は私の返事を待っ
ている。迷った時は心の声に聞いてみるのが良い。私は意を決して、
彼女の目を見つめ返してこう言った。
志「やらない！」
ふっふっふっ言ってやった。栄里は予想外の答えだったのか、目
を真ん丸くして反論してきた。
栄「え〜！！なんでぇ〜、だって日本と比べるとすごく安…」
志「恐い！」
聡「おいおい、俺だって恐…」
志「嫌だ！」
栄「みんなで一緒に…」
志「駄目！」
聡「女…」
志「好き！」
２人が私に向って何かを言う前にイヤイヤを連発し、どうにかそ
の場をしのいだ。ビビリと思われても良い。嫌なものは嫌なのだ。
恐い物を恐いと言える自分の勇気にエールを送りたい！そんな自分
に拍手！そんな事を自分の殻に閉じこもって、ぶつぶつと呟いた。
聡は、いきなり部屋の中央でうずくまり自分自身と会話し始めた
私を見て、部屋の隅へと蹴飛ばした。そしてパンフレットを片手に
予約の電話を英語で始めた。
聡はオーストラリアに来て一ヶ月しか経っていない上に、いつも
話しているのは日本語だ。しかし躊躇することなく英語で予約を始
めた。私は部屋の隅で引っ繰り返りながら、その姿をほれぼれと見
ていた。
聡「栄里〜予約とれたよ。値段はＡ＄３００で、明日の１３時に車
で迎えに来てくれるってさ。志帆は棄権という事で２名で申し込
んでおいたよ」
それを聞いて私は突如元気になった。恐怖から解放されたのだ。
部屋の隅でぷるぷると脅える必要も無い。恐る恐る部屋の隅から出
てきた私を、２人は快く受入れてくれた。
３人で仲良く今後の予定をウキウキと話し合った。ビリヤード大
好きな栄里は、こちらでのビリヤードを体験したがり、聡は破格の
安さのゴルフをやりたがった。そして私は部屋の隅っこでじっとし
ていたいと言った。
自然を愛する栄里はカカドゥ国立公園に行きたがり、聡は貴重な動
物を見に行きたいといった。そして私は昼寝がしたいと言った。
聡「志帆の要望はなんだよそりゃーよー。そんなもん日本でできる
じゃないかよ！」
志「違います〜。オーストラリアの方が湿気が少なかったりするん
です〜」
栄「どっちも頑張れ！キャーキャー！」
Ｐｉｍｐｏｏｏｏｍｍ！
私たちが酒も飲まないではしゃいでいると、玄関のチャイムが鳴
った。誰だろう。うるさくしすぎたので、隣の部屋の奴が怒りにで
も来たのだろうか。聡が玄関のドアを開けると、そこにはオージー
女性が立っていた。そして聡が何やら会話を交わすと、栄里に向っ
て大声を上げた。
聡「スカイダイビング今日だってさ！」
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