〜サトシ・スカイウォーカー〜
聡「スカイダイビング今日だってさ！今すぐ準備して来てくれって
よ！」
和やかムードだった部屋の中が、一転して慌ただしくなった。
栄「準備って何？何を持っていけばいいの！」
聡「俺も分からないよ！すみません、何か持って行かなきゃいけな
いものってありますか？」
聡は玄関に立っているオージー女性にたずねた。
オ「Ｔシャツジーパンで、足首をちゃんと固定している靴があれば
後は何もいらないわ」
聡と栄里はほとんど手ぶらの状態で、急かすオージーの後に付い
て行った。私は２人を見送るために、コンドミニアムの門まで行く
事にした。
オ「あら？飛ぶのは２人って聞いてるけど、３人飛ぶのかしら？」
志「いえ、僕は不参加です…体調が悪いので…ゴホゴホ」
聡「いいえ、彼は元気です。飛ばしてやってください」
志「余計な事言うなーーーー！！！」
オージーは苦笑いしながら、私にこう告げた。
オ「見学するだけでも、一緒に現場に来たら？降りてくる彼等を見
る事が出来るわよ」
志「じゃあお供させてもらいまーす」
門の前には一台のワゴン車が止まっていたので、私たちはドアを
開けて車に乗り込んだ。
オ「それじゃあ早速説明を開始するわね。時間が無いから駆け足で
説明するわよ。あなた達は３０分後にはセスナに乗って３０００
ｍ上空にいるんだから」
聡「３０分後！！おい栄里！３０分後には雲の上だってよ！」
栄「え〜まじ〜！超楽しみ！キャインキャイン！」
車に乗っていたのは１０分間くらいだったろうか。その間にオー
ジー女性は、セスナからの飛び降り方、落下している時のポーズ、
着地する時の注意点を説明した。もちろん英語でだ。
私はヒアリングがほとんど出来ないのだが、オーストラリアに到
着したばかりの栄里は、もっと聞き取れないでいる。私が理解出来
た範囲で訳してあげたが、とてもじゃないが説明にならなかった。
それでもワゴン車は滑走路横の事務所に到着してしまい、２人は
事故が起きた時に訴えない誓約書を渡された。聡と栄里はサインを
すらりんと書くと、早速滑走路の方に連れだされた。別れ際に聡が、
「着地するところを写真に撮ってくれ」と私にカメラを手渡した。
聡と栄里とスタッフ全員が事務所から出て行ってしまい、部屋に
は私１人が取り残された。部屋の中には、空を舞っている人達の写
真が何枚か飾られていた。その中の１枚には全裸の女性が舞ってい
る写真もあった。
「なんだろうこの写真。えへへ〜」とニヤニヤしていると、先ほど
のオージー女性に呼び止められた。
オ「もう彼等が降りてくるわよ。急いでワゴン車に乗って！」
今回２人が挑戦したのはタンデムジャンプと呼ばれる、インスト
ラクターを背負う形で一緒に飛ぶ、スカイダイビングだ。パラシュ
ートを開くタイミングとかは、一緒に飛ぶインストラクタが全てや
ってくれる。
全てやってくれるとはいえ、説明を聞いてから飛ぶまでがなんと
早い事か。早いのは良いが、聡と栄里には満足な説明が得られてい
ないはず。生死をかけた危険なスポーツが、こんなに簡単に出来て
良いのだろうか。不安を通り越して怒りすらこみ上げてくる。
私はムラムラする思いを、ワゴン車を運転する彼女にぶつけた。
志「部屋の中の全裸の女性は何ですか〜？」
オ「ああ、あの写真ね。うちでは女性に限り、全裸で飛ぶと無料に
してるのよ」
志「そうなんですか〜。えへへ〜」
ムラムラ感は治まり非常にリラックスした。そして１０分ほど車
に揺られると、大きな広場に到着した。
オ「あれを見て！もう降りてきてるわ！」
真っ青な空に３つの染みが見える。ひとつは聡で、ひとつは栄里。
そしてもう一つが、２人をビデオ撮影するスタッフだ。染みは徐々
に大きくなっていく。だがそれをのんびりと見ている暇はなかった。
パラシュートが開いてるとはいえ、落ちてくる速度はかなりのもの。
あっという間に栄里が着地し、続いて聡も着地した。２人とも今ま
で見たこと無いような、最高の満面の笑みを浮かべていた。
聡「やったー無事に着地した！すげーよ！超感動！なぁ栄里よ！」
栄「うん！本当にすごい！」
２人は手と手を取り合い感動を分かち合っていた。私は２人のそ
の姿をフィルムに収めた。
聡「うんもーーーすんげーー良かった。真っ青なダーウィンの海が
ぐんぐん迫ってくるんだよ。遠くの水平線や地平線も良く見える
んだぜ。落ちてるというよりも飛んでるって感じだったよ！」
栄「そうそう！そしてぶわっ！てパラシュートが開くんだけど、そ
こからがまた最高！まさに空中散歩！みんな小さく見えて、車と
かも走ってて良かったよ！それからね…それからね…」
２人は熱心に、スカイダイビングがどれほど面白いかを説明して
くれた。しかし私は２人の高揚に反して、取り残されたような、寂
しいような、そんな気持ちがどんどん増していった。
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