〜第二回日豪ビリヤード対決ｉｎダーウィン〜
その日の昼過ぎ、ビリヤード大好きの栄里がとうとう発作を起し
た。
栄「いやー！もう我慢出来ない〜。私に！私にキューを握らせて〜」
栄里はビリヤードを心底愛していて、日本では毎日練習の生活を
送っていた。一日でもキューを握らないと腕が鈍るのだそうだ。彼
女はオーストラリアに来てから一度も握っていない。
その栄里が満面の笑みを浮かべ、キャーキャー言いながら部屋の
中を走り回り、何度も壁に激突しては額から鮮血をだくだくと流し
た。強度の発作状態だ。
それを見た聡は、栄里を動けないように羽交締めにしてから、ビ
リヤード場へと連れ出した。
私たちは、カジノ兼ビリヤードがプレイできるＭＧＭという店に
やってきた。店の中にはビリヤードの台が１０ほど設置されていた。
栄里の大きく愛らしい瞳にもビリヤード台が映ったのだろう、既
に発作は治まっていた。私たちは一番奥の台で８ボールを開始した。
なぜ一番奥なのかというと、私と聡の下手なプレイを、オージーに
見られたくないからだ。
志「なぁ栄里。俺と聡はビリヤード下手君なんだけど、そんなのを
相手にして面白いのかな？」
栄「うん面白いよ。下手な人のプレイも勉強になるからね。この人
の悪いところはどこなんだろう？って見て、自分の悪いところを
直したりできるんだよ」
栄里はプレイをしながら、いろいろとアドバイスをしてくれた。
私は、ビリヤードが上手いと女にもてると思い込んでいるので、熱
心にそれを聞いた。そして栄里のアドバイス通りにやると、玉がポ
ケットに入るので、楽しくもなってきた。
それにしても栄里は上手い。台と玉が日本のものより若干小さい
ので、感覚がつかめないと言っていたが、それでもガコガッコンと
ポケットに玉を収めていく。
しかし楽しい時間はそう長くは続かなかった。いつしか店の中は
オージーで溢れ、私たちの台にも順番待ちが出来てしまった。そし
て想像通りの展開になった。
オ「一緒にプレイしないか？」
相手は格好の良いオージー２人組みだ。以前行ったビリヤード大
会ｉｎリッチモンドで、私と聡はオージー２人組みにこてんぱんに
された。その時のリベンジをしたい。今回は栄里がいる。私と聡も
多少上達した。勝てるかもしれない。私たちは彼等の提案を受入れ
た。
プレイするのは８ボール。日本人３人ｖｓオージー２人でゲーム
を開始した。
オージーチームは親切にも、ブレイクショットを日本人チームに
譲ってくれた。私と聡は恥を掻きたくないので、栄里に「やってく
ださい！！」と寸劇を交えてお願いした。
ゲームは栄里のブレイクショットで始まった。
栄里のターンで確実にボールが一つ落ちていく。オージー組みも
上手いもので、ボールが落ちる事が多かった。そして私と聡のター
ンでゲームの品位が台無しになる。私のショットでは、手玉にキュ
ーが当たらなかったりもする。
「持ち方が悪いんじゃないか？」なんてアドバイスをオージーがし
てくれたりする。彼等の親切は私にとって屈辱だった。悔しかった。
栄里の力を借りて、どうにかしてこいつらに勝ちたい！と思った。
悲しい事に自分の力で！とは考え付かなかった。
ゲームは接戦だった。私と聡が居なければ勝てる試合だったかも
しれない。ターンは栄里に周ってきて、チャンス到来となった。栄
里は自信があったのか、こちらを見て微笑んだ。そして今まさにシ
ョットをしようとした時に、栄里の後ろにオージー女性４人組みが
通りかかった。
彼女たちはブロンドにナイスバディを備え、そろいも揃って良い女
だった。フェロモンたっぷりで栄里の後ろを通り過ぎようとした時、
栄里はショットのモーションに入り、前後にキューを振りかぶった。
するとキュー尻が先頭にいたオージーの右乳房を直撃。
オ「Ｏｈ！Ｎｏ！！痛い！痛いわ！」
豊満な乳房を何度も小突いているのにもかかわらず、栄里はキュ
ーを振り続けた。まったく気づかない栄里の肩を、２番目の女がポ
ンポンと叩いた。栄里は後ろを振り返り事体を把握した。
栄「ソ、ソーリー」
その間私と聡とオージー男２人組みの男性陣は、腹を抱えて笑っ
ていた。
オージー女性２人が通り過ぎ、栄里は再びモーションに入った。
ただ栄里はオージー女性が４人いる事に気が付いていなかった。先
ほどよりも低い位置でキューを振り始めたのだが、今度は３番目の
女性の股間に見事キュー尻が直撃。
オ「Ｏｈ！Ｎｏ！！痛い！痛いわ！ａｎｄ ｍｏｒｅ！！」
しかしこれにも栄里は気が付かない。４番目の女が栄里の肩を叩
いて、栄里が後ろを振り返る。事体を把握した栄里が、
栄「ソ、ソーリー…」
その間男性陣は、笑いすぎでお腹が痛くなってしまい、床の上を
転がりながら手足をバタバタさせていた。
栄里はそれですっかり集中力を欠いたのか、玉をポケットに収め
る事は出来なかった。
その後オージーチームが玉をスコスッコンと入れてしまい、日本
人チームは負けてしまった。
試合には負けた。けど私と聡は、オージーとの一体感という大事
なものを手に入れたので、満足していた。
志「ほら聡。星がきれいだよ」
聡「本当だ。きれいだね」
ＭＧＭからの帰路。星を眺めていた。栄里を羽交締めにしながら。
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