〜借金は増えていく。どこまでも〜
　
　次の日、僕と聡はふかふかのベットで熟睡してから次の目的地で
あるキャサリンに行くための準備を始めた。直径５０ｃｍはある中
華鍋や、栄里がセレクトした日本で流行っているテープ（北野井子
やブラックビスケッツ）を一個所にまとめた。

本当は直ぐにでも車に積め込みたかったが、その車が無い。修理工
場に出したまま戻ってこないのだ。４、５日前に完成する予定だっ
たが直る気配は無い。言った時間を守らないのはオージーの常識な
ので、こちらも気にはしていないが。

車が直るのは今日の１３時と聞いていたので、それまではやること
なし。強いて言えば今日も駄目だった場合に、ユースホステルを予
約しなくてはいけない。

　だが貧乏人の僕は、聡金融からの借金を増やす失敗をしでかし、
暇を潰すことに成功する。２週間の滞在で、コンドミニアムのオー
ナーからＡ＄９００（当時７００００円強）の電話代を請求されて
しまったのだ。

オーストラリアの電話料金は、日本で言う市内通話が一定金額でか
け放題。２４時間テレホーダイ状態なのだ。僕はこの国の電話代は
めちゃめちゃ安いという先入観から、ダーウィンからシドニーのプ
ロバイダーに電話をバンバンかけまくっていた。２点間の距離は、
北海道から九州よりも遠いのに。

僕は聡からＡ＄１０００以上借りており、Ａ＄９００なんて大金は
持っていない。それどころかダーウィンで遊びまくって残りＡ＄１
００も持っていない。外国で数千円しか持っていないのは、スリル
を感じる。

志「あの…ちょっとお金を借りたいんですけど」
聡「うん。良いけどいくら？」
志「Ａ＄１０００…」
聡「え？！千って言った？ケアンズで貸してあげたお金は無くなっ
　ちゃったの？」
志「うん。それもあるけど。電話代で千…」
聡「電話代でＡ＄１０００って聞こえたけど。どういうこと？説明
　してよ」
志「あのですね…」

　聡は、僕のアホな発言や行動で呆れることが多々あるが、今回は
最大級に呆れていた。目は虚ろになり宙を見据えていた。心なしか
髭が濃くなった気がする。

聡「じゃあ…銀行に行ってくるから、荷物を見張ってて…」

　銀行までの距離は片道３〜４ｋｍある。聡はとぼとぼとコンドミ
ニアムの門に向って歩きはじめた。

僕は日本にいる友達にメールを出すために、電話をじゃんじゃん使
っていた。メールのおかげで日本とオーストラリアはこんなに近く
に感じるんだ！なんて思っていた。ちなみに日本からシドニーの往
復旅行券は当時Ａ＄９００以下で買えた。友達と連絡を取りたかっ
たら会いに行って戻ってこれたのだ。そりゃ聡も呆れるわ。

　数字間後、炎天下に照らされた聡が銀行から帰ってきた。僕は日
影で荷物の見張り番。

聡「ほらお金持ってきたよ。Ａ＄２０００渡しておくからオーナー
　に払ってきなよ」
志「電話代はＡ＄９００ですよ？」
聡「もう手持ちのお金もないんだろ。貸しておくよ。それとジュー
　ス買ってきたから飲んでいいよ」

　至れり尽くせりだった。聡に平謝りしてコンドミニアムの受付へ
と走った。眼に涙を浮かべながら（嘘）。

ここのコンドミニアムに泊まっていました。うらにボタニック
ガーデンという広場があり、ボブディラン（たぶん）が野外ライブ
をやっていました。僕たちはビールを飲みながら彼の曲をＢＧＭに
してバカ話に華を咲かせていた。

♪愛しかない
それが世界を動かしている
それなしでは
なにもできない♪
（ボブ・ディラン）