〜キャンベラへの旅〜Ｐａｒｔ１

−１９９８／０７／２８　午前０８：００−
志「じゃあ、軽〜い気持ちでキャンベラ行っちゃいましょうか！」
聡「じゃあ、試運転を兼ねてキャンベラ行っちゃいましょうか！」

その前にキャンベラがなんだか分からない人へ
キャンベラはオーストラリアの首都です。オーストラリアで一番栄
えている都市がシドニーなので、シドニーが首都なのでは？と思い
がちですが、キャンベラだったのです。

この都市は１９２７年のメルボルンからの首都移転のために建設さ
れた計画都市です。そのため街並みは大変綺麗で、区画や道路もき
ちんと整備されています。しかし私はこの街に活気というか人間味
をあまり感じませんでした。

シドニーからキャンベラへの距離は約３００ｋｍ。東京から仙台に
行くのと同じような距離だ。順調に行けば４時間ほどで到着する距
離だが、今日一日で往復すると思うとちょっとしんどい。

志「ではどちらから運転しましょうか？」
聡「そうだな。俺はまだ１度もこの車を運転した事無いから、俺が
　先に運転させてもらって良いかな？」
志「どうぞどうぞ。それでは僕は帰りに運転しましょう。」

　外の天気は曇り。シドニーにとっての７月は真冬であり、雪が降
る事はないもののかなりの寒さである。これから更に３００ｋｍ南
下するとなると、これ以上に寒くなるのだろう。そう思うと更にし
んどくなる。

聡「それじゃあ出発進行だ！寒いけど張り切っていくぞ！さあこぶ
　しを振り上げて！」
聡、志「エイ！エイ！オー！」
（実際にはそんな事は言っていないし、やっていない）

　聡は車を順調に走らせ、オペラハウスを横目にハーバーブリッジ
を渡った。ほんの一時だがシドニーとお別れだ。思えばシドニーか
ら郊外に出るのは初めての事であり、キャンベラ行きの交通標識と
地図だけが頼りだ。

シドニー市街地を抜けて１０ｋｍほど走ると、早速現在位置を見失
ってしまう。どうやら交通標識が分かり難いのは日本と同じようだ。
途中で見掛たセブンイレブンに立ち寄り、朝食を購入して店員にキ
ャンベラ行きの道を尋ねた。

店員「おお！君たちはキャンベラに行くのかい？それならこの道を
　　真っ直ぐ行けばキャンベラだよ。問題無いぜ！わっはっは」
　　（と言われた気がする）

　店員の意見を全面的に採用して、車を南西の方向へと走らせると、
無事にキャンベラ行きの標識が見えてきた。どうやら店員の言う事
はあっていたようだ。しかし道はどんどん寂しくなる上、雲はどん
どん厚くなっていく。

シドニーのビル街は、はるか後ろに遠ざかり影も形も見えやしない。
見える景色は、どんより曇った天気下の草原と、林とは呼べない木
々だけである。辺りに民家などがある訳が無く、人工物は道路しか
ない状態だった。

　臆病で寂しがりやの私たちは、ＢＧＭを流して気を紛らわす事に
した。私の車にはラジオとカセットしか付いていなかったのだが、
聡は日本からＣＤウォークマンとそれを繋ぐアダプタを持ってきて
いた。

日本の製品が果たしてオーストラリアで使用可能か、多少の不安が
あったがＣＤのセッティングをし、プレイボタンを押すといとも簡
単に音楽が流れ始めた。

志「おお！やった、普通に繋いだだけで音が流れましたよ」
聡「よっしゃ！日本からわざわざ持ってきた甲斐が合ったってもん
　だぜ！」
志「でも最初に流れたのがこの曲じゃあ…」

　スピーカーからはセリーヌ・ディオンのMy Heart will go on、
タイタニックのテーマ。それは私たちの寂しい心を、冷たい深海に
沈めるが如く、冷やしてくれました。

そして更に私たちの心を冷やしてくれる出来事が一つ。

志「さっきから寂しい景色だけで何も見えませんね。しばーらく信
　号機も見てませんし。シドニーからどれくらいの距離走ってます
　か？」
聡「そうだなー２５０ｋｍという所かな？寂しいついでに良い事教
　えて上げようか。さっきからガソリンメーターがＥｍｐｔｙのＥ
　を指し始めてるんだけど」
志「マジですか！まだ予備のガソリンとか積んでないですよ。さっ
　きから交通標識が出てないから、キャンベラまで何キロかよく分
　からないですし、さっきから対向車も全然来ないし。」

２０ｋｍ走行後

聡「ぎゃー！！！ひぇーーーー！」
志「一体全体どうしました！」
聡「Ｅｍｐｔｙのランプが赤くなった！！」
志「ぎゃー！！！ひぇーーーー！」

２０ｋｍ走行後

くらん…くらん…くらん…
志「なんか車が嫌な揺れかたしてませんか？」
聡「良く気が付いたね。これはノッキングと言ってね。ガソリンが
　もう無いという証拠だよ。」
志「ぎゃー！！！ひぇーーーー！こんなところで止まったら寂しく
　て死んじゃう！」
聡「おい見ろ！何かの建物が見えてきたぞ。あそこに緊急避難だ」
志「あれ…見えますか？良く見て下さいよ。Ｐｅｔｒｏｌ（ガソリ
　ン）って書いてある！やったー！」

それはキャンベラまで残り２０ｋｍくらい手前の出来事でした。

シドニーのビル街は、はるか後ろに遠ざかり影も形も見えやしない。
見える景色は、どんより曇った天気下の草原と、林とは呼べない木
々だけである。辺りに民家などがある訳が無く、人工物は道路しか
ない状態だった。