〜怪しい男。そしてアンナ〜

　夜中に異常にベットが揺れて目が覚めてしまう。ＹＨＡの相部屋
のほとんどが２段ベットなのだが、私は下のベットで寝ており、聡
は私から一番離れたベットで寝ていた。

恐らく上のベットに見知らぬ誰かが来たのだろう。夢うつつのまま
目をそっと開けると、黒い髪の男が今まさに、ベットに上ろうとし
ていたところだった。

私はその時自分の目を疑い驚愕した。何もその男が東洋人だったか
らではない。まして知り合いだったなんてことは決してない。その
男が薄明かりの下で、やけに光り輝く真っ青なガウンを着ていたか
らだ。それも「わて金持ってまっせ！」というオーラを発しながら。

ＹＨＡに泊る連中のほとんどは貧乏である（決め付け）。夜寝る時
の服装も、短パンにＴシャツだったり、白人のモッサイ男などは金
髪の胸毛をワッサワッサ（ワッショイワッショイでも可）と見せ付
けながら歩いたりしている。

それがこの東洋人ときたら、ＹＨＡの宿泊者とはとても思えないい
でたちでベットに上ろうとしていた。私は夢と現実の区別が付かな
いまま、再び深い眠りへと落ちていった。

朝目覚めるとその男は荷物だけ残していなくなっていた。同じく目
を覚ましていた聡に声を掛けた。

志「昨日の夜中に誰か来たの知ってました？」
聡「あ〜俺は目をつむってたけど、ドアが開く音は聞こえたような
　気がするよ」
志「そうかーあれは夢じゃなかったんだ。そいつは僕のベットの上
　で寝てたらしいんだけど、ＹＨＡの宿泊者に似つかない真っ青な
　ガウンを着てたんですよ。もーびっくらこいちゃって、そのまま
　気ぃ失っちゃいましたよ」
聡「あらそうなんだ。俺そいつの姿全然見てないけど、朝早く出て
　いったみたいだよ。荷物が置いてあるから今日も泊るんだろうな。
　どんな奴なのか楽しみだね」
志「まあそれは夜のお楽しみに取っておいて、これから朝食でも食
　いに行きませんか？」
聡「だな」

　実は聡がゴールドコースト（Surfers Paradiseを含む世界有数の
リゾート地）に来るのは今回で２度目になる。聡に連れられてゴー
ルドコーストの繁華街へと繰り出した。

　私たちは海岸通りにパラソルが立ててある小粋なレストランで、
鋭い日差しと涼しい風を浴びながら、出来立てのソーセージ＆エッ
グとトーストを頬張った。

志「今日はこれからどうしましょうかね？」
聡「そうだな〜。車の事も考えなくちゃいけないけど、取りあえず
　今日はリゾートしようぜ。俺さー前回行かなかった、ワーナーブ
　ラザーズワールドに行きたいんだよな〜」
志「おお！僕もそこに行ってみたいと思ってたんですよ。映画好き
　の僕にはたまらないスポットかもしれない！けどその前に、フィ
　ルムの現像をしたいんですけど。小一時間ばかり」
聡「例のアンナが写ってるフィルムか？そうだな。ワーナーの開園
　までまだ少し時間あるし現像しに行こう。俺もアンナがどんなに
　可愛いのか見てみたいしな」
志「にひひひひ〜。可愛いのにびっくりして、おしっこ漏れっぱな
　しになっても知りませんよ！」

　私たちは１時間で現像できるカメラ屋を探して、早速フィルムを
カメラ屋のおっさんに手渡した。

聡が「１時間待っている間に日本の友達にお土産を買いたい」と言
い出したので、近くのおもちゃ屋に向った。聡は私が勧めたサウス
パークのＴシャツを購入し、ほくほく顔だった。

−１時間経過−

　カメラ屋から写真を受け取り近くのベンチに座って、早速アンナ
お披露目会を行った。まずは１枚ずつ関係のない写真を捲っていく。
そのうちアンナに会いに行った日の日付が出てきて、マンリーの街
並みや学校の写真が出てくる。いよいよ次がアンナの写真だ。
私は聡の驚く姿を想像しながら、写真を捲った。

志、聡「こ、これは！」

　ちょっとピンぼけ写真のアンナです。うーん…。１９９９年１１
月１４日現在。彼女からの連絡はありません。もうどうでもいいけ
ど…。