〜シーフードで舌鼓、そして怪しい男〜

　１９時。私と聡はマリナミーラージュの入り口付近で彼女たちが
やってくるのを待っていた。この時間になるとゴールドコーストの
突き刺さる日差しも、遥か西へと影を潜めていた。

いくらゴールドコーストと言えども、真冬に日没を迎えてしまうと
それなりに冷え込んでしまう。とてもＴシャツ１枚で出歩くことは
出来ない。ところが周りを見渡せばオージーと思しき人たちは、Ｔ
シャツにショートパンツ姿で街に繰り出している。どうやら日本人
とは体感気温が違うようだ。

　長袖のシャツに身を包んでいても多少の寒さを感じる。裾を捲く
って腕時計に目をやると約束の時間を５分ほど過ぎていた。腕時計
に目をやってる姿を見て聡が話し掛けてきた。

聡「ひょっとしたら来ないかもよ…」
志「うーん、どうなんですかね〜。約束を破るような感じには見え
　ませんでしたけど」
聡「女の心変わりは激しいからな。期待しない方がいいかもよ」
志「来なかったらマックでビックマックでも頬張りますか」
聡「たは〜。シーフードが一転してジャンクフードかよ。最近良い
　もの食べてないから、楽しみにしてたんだけどな〜」

しかしそれは杞憂に終り、彼女たちは１０分遅れてやってきた。な
んでもリムジンサービスが何かの手違いで受けられず、バスでわざ
わざやってきたとのことだ。

　オーストラリアでバスに乗るのは少しばかり度胸を必要とする。
なぜならオーストラリアのバスは行き先を告げるアナウンスが一切
ないからだ。これだと知らない場所に行く時に、なんとなく目星を
付けて降車するしかない。間違った系統のバスに乗ってしまった時
なんかは、見知らぬ土地に連れて行かれ涙目になってしまう。

　彼女たちが無事にやってこれた姿を見て、私と聡は心の中でガッ
ツポーズをとりあった。そしてガイドブックに書いてあったお薦め
シーフード”ＧＲＵＭＰＹ’Ｓ　ＷＨＡＲＦ”へと向った。

本当ならここで、その店の味がどんなに素晴らしくて、女の子達と
の会話がどんなに楽しかったか紹介したかったのだが、残念なこと
にきれいさっぱり忘れてしまった。それというのも、私がシーフー
ド料理にあまり興味がなかったのが原因かもしれない。いやいやそ
の店の料理があまりにも美味しくて、記憶を喪失してしまったのだ
ろう。

どうにか思い出せるのは、彼女たちの名前が「友希」と「詩織」で
就職を控えた女子大生ということだ。そうだ！あとそこでワインを
飲んだのだが、友希が「そのワインのラベルが記念に欲しい」と言
って、ボトルを持ち帰っていた気がする。

　私たちはとても楽しい一時を過ごし（覚えてないけど）、明日も
遊ぶ約束を交わして、彼女たちに一時の別れを告げた。

１９９８年０８月０１日はいろんな事があった。真っ青なガウンに
身を包んだ男、アンナに失望、ワーナーブラザーズ・ワールド、そ
して彼女たちとの出会い。しかしこの日はこれでもまだ終らない。

私たちがＹＨＡの部屋に戻ると、靴下にパンツ、Ｔシャツを装着し、
今まさに真っ青なガウンを身に纏おうとしている彼がいた。その姿
は歪んだ見方をすれば、何かの変身シーンに見えなくもなかった。

一応上下のベットに寝る仲なので、私は気さくに声を掛けてみた。

志「ハーイ」
男「ハーイ（一際小さい声で）」

話しは終ってしまった。私は「まぁいいや」とばかりに下のベット
に、体を投げ出した。

そしてその日の夜に、小さな事件が起きた。

一番左が聡、真ん中の女の子が友希、その隣りが詩織。ほんで下が
私です。ＧＲＵＭＰＹ’Ｓ　ＷＨＡＲＦの前で、オージーのおっち
ゃんを捉えて撮ってもらいました。これが真冬の格好です。関東地
方だったら１１月後半くらいの寒さです。シドニーだともっと寒い
です。