〜あれ？無いよ〜

　まだ日が昇っていない時間、昨晩と同じようにベットが揺れた。
真っ青なガウンに身を包んだ上段ベットの住人が起きたようだ。目
を閉じたまま揺れが収まるのを待っていると、重い物体がカーペッ
トに着地して揺れは収まった。やがて物体はガサゴソと身辺整理を
始め、私は再び眠りに落ちた。

　太陽の日差しが部屋に入り込んできた時間に目を覚ますと、上段
ベットの住人の荷物は全て無くなっていた。

結局彼とは話しをしなかったが、彼もまた旅人の一人だ。真っ青な
ガウンに身を包みながらも何かを思い考え、目的地に一歩一歩近づ
いて行くのだろう。そんな見ず知らずの彼と私を巡り合わせてくれ
た神様に感謝します。ありがとう神様。そして頑張って下さい、真
っ青なガウンの青年よ。

　な〜んて事は全然考えていなくて、股を掻きながら今日の予定を
ポヤリンと考えていた。そして考えながら何気な〜く自分の手荷物
に目をやると、「あれ？無いよ」

リュックサックの上に置いておいた、ゴゥミからもらった帽子が無
くなっている。ちゃんと確認した訳ではないが、昨晩は置いてあっ
たはずだ。

手荷物は乱雑に置いてあったので、そこら辺に落ちてるのかと思い、
ベットから起き上がり見渡すが、どこにも見当たらない。無意識の
うちにカバンの中に仕舞い込んだかなと思い、リュックサックから
スーツケースまで全て開いてみるが、それでも見つからない。

　あの帽子は台湾人のゴゥミから餞別として貰ったものなので、一
生大事にしようと思っていた品だ。それは台湾で人気のある野球チ
ームの帽子で、ゴゥミ自身も気に入ってた。それをもらって３日で
無くなってしまった。

いいや。私は物を無くしたりするタイプではないし、昨晩はあった
気がする。その時私のパープーな頭が閃いた。

「奴か？」

証拠は何も無く、状況判断するしかないのだが、
１．昨晩は帽子があった気がする
２．それが今はどこにも無い
３．その間に出ていった人物は１人
４．その１人が台湾人だったら・・・
５．その台湾人がその野球チームの大ファンだったら…
６．今ごろ真っ青なガウンに、帽子を被ってるかも…
７．「超似合わねぇ〜」ってオージーに笑われてるかも…

恐らく彼が犯人だろう。全然違う第三者が夜中に忍び込んで、盗っ
ていった可能性もあるが、金目のものでなく帽子を１個だけ盗るも
のだろうか。

放心状態でベットに腰掛けていると、聡がむっくり起きだした。

聡「ういっす！ういっす！ういっす！気持ちの良い朝だね！」
志「僕には最悪の朝ですよ。ゴゥミにもらった帽子が盗まれちゃい
　ましたよ」
聡「あらま〜。本当に？無くしたんじゃなくて？」
志「ええ…。たぶん真っ青なガウンの男に…」
聡「そうか…。それは残念だけど、お腹が減ったから飯でも食いに
　行こうぜ。そしたら元気も出るってもんだ！」
志「はぁ…」

　私と聡はマリナミラージュ側のマクドナルド（発音はマックゥダ
ーナゥ）にモーニングセットを食べに行った。私は日本と全く同じ
味のホットケーキセットを注文した。食べたら本当に元気が出た。

　今日はこれから詩織と友希を連れて、競馬場を見学する予定だ。
そして２度と帽子を見ることはなかった。

オーストラリアは野生の鳥が多く、たくさんの種類います。
ペットショップで売っているようなカラフルなオウムやインコが
飛び回っていたり、写真のニセトキなどが都心部にいたりします。
　オーストラリアにいる時にトキの姿がおぼろげにしか思い出せ
なかった私と聡は、「これはトキだ！」「いや違う」と口論して
いました。