〜新聞紙ジョウゴ〜
アーリービーチへ出発する前に、毎朝の日課である運行前点検を
行った。チェック項目はただ１つ。エンジンオイルが適量入ってい
るかの確認だ。昨日は車に易しい運転を心がけていたのだが、オイ
ルは必要容量を示す下線ギリギリに位置していた。
エンジンオイルのキャップを開けて、新聞紙をくるくると円錐形に
丸めて注ぎ口に差し込み、オイルをトクトクと流し込んだ。丸めた
隙間からオイルが漏れないように注ぐのはお手のものだが、毎日新
聞紙を丸めるのも何だかな…
聡「ちゃんとしたジョウゴがほしいな…」
〜慣れ〜
運行前点検が終わりアーリービーチへと車を走らせる。出発して
一週間ほど経つが、定住する場所は無いものの日々の生活にリズム
が出来上がりつつあった。
朝は運行前点検を行い、昼は目的地に向かって運転を交代しながら
車を走らせる。目的地に着いたらＹＨＡのガイドブックを頼りに宿
泊場所を探す。宿泊場所で夕食を採ったら、次の日の行き先を決め
て就寝。この繰り返しだ。
アーリービーチへと車を走らせていても、見飽きた景色がどこまで
も続き、ただ車を走らせる作業に没頭するだけだ。悲しい事に、こ
の日もカンガルーの死骸を何十匹と見たのだが、既に何も感じなく
なっていて、悲しみは沸いてこない。
リズムが出来て安定すると同時に、旅に対しての慣れと飽きが生ま
れはじめていた。
〜ギャンブルナイトその２〜
アーリービーチはウィットサンディ諸島への入り口となる場所で、
たくさんの観光客が、眩いばかりの太陽と透き通ったブルーの海を
体験しにやってくる場所だ。この諸島には数多くのダイバーが訪れ
ダイブしたり、ハートの形で有名なハートリーフをヘリコプターの
遊覧で見る事が出来る。
しかし私たちはそれをやらなかった。私たちが観光に精を出す場
所は、次の目的地であるケアンズと決めていたからだ。と言うと聞
こえは良いが、金と時間が無かったというのが一番の理由かもしれ
ない。（金が無いのは私だけであって、聡は山ほど持っている）
私たちはＹＨＡ（プール付き）に荷物を下ろして街を散策した。
夕暮れの海岸沿いの歩道を男２人で歩くのは、ラブラブな様で非常
に嫌だったが、そんな事を忘れさせてくれるくらいに海はきれいだ
った。途中で見つけたベンチに男２人で腰を下ろして一服するのは、
ラブラブな様で非常に嫌だったが、だんだんと暗くなる海を、何も
考えずにぼーっと見ているのは、なんとも心地良かった。
日暮れ後、私たちは夕食にケバブを食べてから一軒のパブへと吸
い込まれて行った。日が暮れたといっても、気温は程よい暑さを維
持していて、喉がビールを欲しているからだ。
そしてここには何台ものスロットマシンが設置してあり、ＫＥＮＯ
と呼ばれるビンゴゲームが開催されていた。ＫＥＮＯについて簡単
に説明すると、１〜８０の数字から２０個の数字が選ばれるので、
その選ばれる数字を当てればいいだけだ。
最低の当たりだとＡ＄５くらいしかもらえないが、最高の倍率で当
たるとＡ＄１００万とかが当たってしまう。ＫＥＮＯは各州が行っ
ているので、オーストラリアの大抵の場所で見る事が出来る。
聡「あそこにあるＫＥＮＯって初めて見るけどあれはなんなの？」
志「あれは簡単に言えばビンゴゲームですよ。好きな数字を選んで
当たればお金がもらえるってやつです」
聡「ふーん。ルールは簡単だね。これって儲かるのかな？」
志「いやー駄目でしょう。僕は何度かやった事ありますけど、当た
っても数ドルが良いところですよ」
聡「ものは試しでやって見るよ」
聡がＫＥＮＯをやっている間、私は決して儲かることがないスロッ
トマシーンに小銭をじゃぶじゃぶと注ぎ込んでいた。なぜなんだろ
う。貧乏人に限って博打にのめり込み、無け無しの金を減らしてい
くのは…。
私がＡ＄２０ほど負けた時に何気なく聡の様子を伺うと、熱心に数
字のチェックを行っていた。
志「どうっすか調子は？どうなんっすか！！！」
聡「うん。やはり簡単なゲームだね。一番最初のゲームでＡ＄５０
が当たったよ」
志「え！まじっすか！それは簡単なんじゃなくて運が良かったんで
すよ」
聡「まぁ次のゲームが直ぐ開催されるから、ちょっと見ていきなよ」
１〜８０までの数字が並んだ電光掲示板に、次々と数字が点灯して
いく。２０個すべての数字が出そろった時に、聡がぽつりと呟いた。
聡「今度はＡ＄２０が当たったよ」
志「げげ！！」
その後私もＫＥＮＯに参戦するが尽く外しまくる。しかし聡は、大
当たりすらなかったものの、細かい当たりを何度か出していた。や
はり金は金のあるやつによって行くのだろうか。ちなみにこの時の
私の全財産は、既にＡ＄１０００を割っていたように思う。
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