〜灼熱の砂漠〜
私たちはタウンズビルを後にして、内陸部の街リッチモンドへと
向った。調子の良くなったポンコツ君は、内陸部を突き進み砂漠地
帯へと差し掛かる。
オーストラリアの砂漠地帯は、日本人がよくイメージするような、
砂ばかりの世界が広がっているわけではない。道路の周りに広がっ
ているのは、叩くと崩れそうな岩と、水分を貯えておくための固い
葉を持つ植物などが目にとまる。
たがあるのはそれだけで、それが３６０°の地平線の彼方まで広が
っている。他の車もほとんど通らない。ガソリンスタンドも５０ｋ
ｍ〜１００ｋｍ間隔で点在するだけだ。
真上から照り付ける太陽が熱い！遮る雲はほとんど出ていない。
なるほど。この状態なら死者が出てもおかしくはない。しかしその
おかげでクーラーボックスに入っている、キンキンに冷えたコカコ
ーラがたまらなく美味い！こんなに美味いコーラは初めてだ。
〜イイ感じのエエ加減な街〜
太陽の日差しが若干和らいできた時間に、リッチモンドに到着し
た。ガイドブックに載っていない街リッチモンドに、ＹＨＡやバッ
クパッカーはない。だが宿泊施設が無くても、私たちにはテントが
あるので心配はしていなかった。だが一軒のパブ兼モーテルが直ぐ
に見つかった。
夕食までにはまだ時間があったので、宿に荷物を下ろしてから二
人で街の散策に出かけた。が、３０分もしないで戻ってきてしまっ
た。なぜなら散策するほどの大きさも見るものも無かったからだ。
メイン通りの両側に、かなり寂れた建物がポツリポツリとあるだけ
で、他には何も無かった。しかも街の全長はたった５００ｍほど。
土曜日だったせいか、我々の泊まるモーテル以外に開いてる店は無
かった。仮に空いていたとしても、店のディスプレイに並んでるの
は、街同様に寂れた物ばかりだった。
しかし私はこの街がえらく気に入ってしまった。寂れ具合がなん
とも良いのである。アメリカ映画に出てくる西部劇の舞台のようだ。
そしてイイ感じにエエ加減な雰囲気がブイブイする。のんびり時間
が過ぎる感じがする。街にいる人間全員が知り合いで、和気あいあ
いやっていそうな気がする。
私と聡が一階にあるパブに行き、ビールを一杯注文していると、少
し離れたカウンタでビールを注文している警察官がいた。外にはパ
トカーが停まっている。彼は別の客と乾杯して、なにやら笑顔で話
しをしていた。
ここは警察官が制服でビールを飲める街だ。なんて平和なんだろう。
日本でも地方に行けばこういう光景を見る事が出来るのだろうか？
私はますますこの街を、オーストラリアを気に入ってしまった。
〜第一回日豪ビリヤード対決ｉｎリッチモンド〜
明日の計画を立てる以外にやる事が無い私たちは、最高に美味い
ビールをグイグイ飲んで暇を潰していた。けどまあ今更二人で話し
をするような事も無く、ほろ酔いで暇を持て余し始めた私たちは、
店の端にあるビリヤード台に目をつけた。
そういえばダーウィンから参加の栄里は、現在ビリヤードにはま
っているらしく、自分でビリヤード部（通称ビリ部）なるものを作
り、毎日何時間も練習し大会に出場したりしているらしい。その熱
の入れ様は凄まじく。オーストラリアに来るのを止めようかと考え
てしまうほどだ。
そんな彼女はオーストラリアに来ても、キューを握っていたいとの
事で、ビリヤード場を探しておいてくれと頼まれていた。場所はダ
ーウィンに着いてから探すとして、私たちは彼女に少しでも負けな
いよう練習する事にした。
オーストラリアのビリヤード台は、日本のと比べると台も玉も少
し小さい。そして台の横にお金を入れる様になっていて、Ａ＄２ほ
ど入れると玉がゴロンと出てくる仕掛けになっている。日本のゲー
ムセンターにあるエアホッケーの様な感じだ。キューは壁に立て掛
けてあるか、店のおっちゃんに言って借りるようになっている。
私たちははっきり言ってビリヤードはヘタ君で、なんべんやって
も玉がポケットに入らない。まぁ勝負するわけでもなく、暇つぶし
でちんちんたらたらやるだけなのでいいのだが。しかしそのビリヤ
ード台に二人のオージーがやってきてしまった。どうやらビリヤー
ドをやりたいらしい、
最初二人のオージーは「次やらせてくれよ」と言っていたのだが、
話しをするうちに「一緒にやろう」に変わっていた。ピンチである。
彼らは私たちよりは確実に上手いだろう。ここで負けたら日本人全
員が、ビリヤード下手という烙印が押されかねない。
彼らは私たちが「うん」とも言わないうちにお金を投入し、どっち
が先にブレイクするかの話しを始めてしまった。第一回日豪ビリヤ
ード対決ｉｎリッチモンドである。
彼らは親切からだろうか、日本人チームからブレイクする事を勧め
てくれた。恥かしがり屋の私は、恥を掻きたくないので聡にやらせ
ようとしたのが、鬼のような形相で睨まれてしまったので、私から
打つ事にした。
オーストラリアでメジャーなのは、８ボールというゲーム。これは
１５個ある玉を１〜７と９〜１５に分けて、どちらかを自分達の手
玉としてポケットに入れていく。全て入れてから最後に８を落とし
た方の勝ちだ。今回行なうのも８ボール。
ブレイクショットを力任せに打ったが、玉はどこにも入らなかった。
運もセンスもありゃしない。ターンはオージーチームに移った。す
ると案の定スッコンスッコンポケットに玉を収め、何やかんやで８
ボールを入れてしまった。
日本人チーム惨敗である。「ありがとう楽しかったよ」と引き上げ
ようとしたのだが、「もう１ゲームどうだい？」と誘われてしまっ
た。「うんいいよ！」と言うよりも早く第２ゲームが開始。今度は
オージーチームからブレイクショットが放たれた。そしてあっとい
う間に、第２セットも取られてしまった。そして同じように第３セ
ットを断る間もなく始まってしまい、そして負けた。
３連敗の惨敗である。さすがに４試合目をやる気力はなかったので
断りの言葉を入れた。
志「俺達さ、ちょっと夕飯食べてくるから二人で楽しんでてよ」
オ「お！そうかい。それじゃあ俺達はもう少し遊んでるけど、どれ
くらいで飯食べおわる？」
志「そうだな〜１時間くらいかな？」
オ「そうか。それじゃあ１時間後の８時３０分に待ってるから、ま
たやろうぜ！」
志「あ、ああ……そうしよう。じゃぁまた」
彼らオージーの名前はトロイとアンドリュー。なかなかの好青年
だった。この近くの牧場で働いているらしい。ゲームをしながらト
ロイに、日本についてこんな事を聞かれた。
ト「日本の最近の株式は一体どうしたんだい？」
志「知らん！」
政治経済がさっぱり分からない私は、そう答える事しか出来なか
った。仮に知ってても英語で説明できましぇん。あー恥じ掻いた。
取り敢えず私たちのせいで、リッチモンドにおける日本人の評判は
悪くなった事だろう。
しかし私たちはそんな事はおかまいなしに、夕食を食べに行った。
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