〜ヒッチハイクされました−その１−〜

　タダ酒を飲んだ次の日の朝は爽快。昨晩、雨が降ったのだろうか。
窓から外を見ると地面が濡れており、朝陽をギラギラと反射させて
いた。聡を起こさないよう部屋を出ると、隣の女部屋のドアが開け
っ放しになっており、そこにはストッキングを脱いでいるんだか履
いている金髪ギャルがいた。僕は「見てはいけない」と心で呟きな
がら、部屋の前を3往復した。早起きは三文の得。

　車の運行前点検を終える頃には、聡や宿に泊まっていた人たちが、
出発の準備を始めていた。聡に声をかけ出発の準備が終わったこと
を告げる。僕はトランクを取りに部屋へ戻り、忘れ物がないことを
確認してからホテルのロビーへ。トランクをゴロゴロ転がして玄関
を出ようとした時、ブラウンヘアーの白人女性に話し掛けられた。

「あなたたちはこれからどこに行くの？」
「僕たちはパースに向かう途中だよ」
「ゲッツ！もし迷惑でなかったら、私を次の街まで乗せてくれない
かしら？」

　どうやら彼女はヒッチハイクをしながら、オーストラリアを旅行
しているようだ。同じ方向に行くぱ〜ぷ〜を探していたのだろう。
ヒッチハイクによる強盗があるようだが、彼女はそんなことをする
人には見えなかった。一応聡に相談してみたが、ふたつ返事でOKだ
った。「ゲッツゲッツ！」

　彼女の名前はアンドレア。生まれはオーストリア。女性に年齢を
たずねるのは失礼か？と思い、年は聞かなかった。ちなみに見た目
は30代前半って感じ。胸がときめくような女性ではなかったが、人
当たりが良くてやさしそうな雰囲気。だが彼女は鬼ッ子だった。彼
女はポートヘッドランドから西に約800キロ行った所にある、コー
ラルベイに行きたいと言ったのだ。

800キロと言えば、東京から福岡の直線距離に匹敵する。それを1日
で行こうと。確かにオーストラリアの道路事情を考えれば不可能な
距離ではない。コーラルベイまでの道中で、渋滞及び信号待ちにあ
う可能性はほぼゼロ。時速100キロで飛ばせば8時間で着く。

しかし僕らのフェラーリは時速90キロまでしか出せない限定仕様。
しかも後部座席の窓が1枚割られている。さらに、今まで1日でそん
な長距離を走ったことがないので、ドライバーの体力と車の状態が
心配。けど僕と聡は断る度胸がないうえ「嫌です」という英会話を
知らなかったので、渋々了承した。

運行前点検は毎朝の日課でした。エンジンオイルが垂れ流し状態な
ので、毎日補充していました。

僕はよく分からなかったのですが、聡に言わせるとボロボロだそう
です。ファンベルトはガタガタ。パイプはズタズタです。