〜ヒッチハイクされました−その２−〜

　オーストリア人旅行者のアンドレアを乗せて、カウンタックは、
コーラルベイへと向かう。運転手は僕。助手席に聡。アンドレアは
後部座席に腰を下ろした。普通なら自己紹介をしたりお互いの国に
ついて知ってることを話したりするのだが、割られた後部座席の窓
から風が入りうるさいので会話は困難。最初は大きめの声で会話を
していたが、僕と聡の英語力の低さに気がついたのか、アンドレア
は話しをあまりしなくなった。

僕と聡だけで話をするのは気が引けるので、お互いに黙っていた。
風がバタバタ鳴ってはいるが静かな車内。赤い車はゆっくりと着実
に西へと向かう。だが静寂は不吉な言葉と共にかき消された。

「Ｎｏｏｏｏ！！！　＆　Ｏｕｃｈ！」

　僕と聡が後ろを振り返ると、アンドレアが手のひらでおでこを抑
えて「シマッタ！」というジェスチャーをしていた。

「Ｏｈ！Ｍｙ　Ｇｏｄ！マイガッ！」

そう言うとアンドレアは、すまなそうな感じで運転席と助手席の間
に身を乗り出してきた。

「悪いんだけど、今朝泊まっていた宿に戻ってもらえないかしら」
「どうしたんだい？」
「実はね、宿のオーナーにパスポートと航空券を預けていたんだけ
ど、返してもらうのを忘れていたの」

車のメーターを見るとすでに50キロほど走ったところだった。

「間違いないの？」
「確かよ」

このまま西へと向かうのは無駄なので、とりあえず車を路肩に止め
た。この場合、宿に戻ることよりも「実はかばんの中に入ってまし
た〜。うっふ〜ん」というオチの方が怖い。

「手荷物に入ってたり、元々預けてなかったということはないの」
「確認してみるわ」

アンドレアは荷物をひと通り調べていたが、すぐに「ありまへん」
というジェスチャーをした。仕方がない。考えることは何もない。
戻るしかない。僕は車をUターンして東へと走らせた。彼女は「こ
こまでかかった往復のガソリン代を払うわ」と言った。聡はお金を
もらうことに反対していたが、僕はそれで彼女の罪の意識が癒され
るならと思い、ガソリンスタンドでお金を受け取った。

　今見てきた景色をもう一度拝むことになるとは思わなかった。50
キロの道のりを引き返して宿に到着すると、昨晩大勢いた泊り客は
誰もいなかった。アンドレアはレセプションに小走りで近寄り、チ
ケットとパスポートを見せながら笑顔で戻ってきた。そして再度車
を西へと走らせた。この道を走るのは3度目だ。

カウンタックというあだ名をもつ車。後部座席の窓が割れているの
で、ダンボールでふたをしている。そうしないとクーラーの冷気が
逃げてしまう。けどダンボールがバタバタうるさい