〜海外で暮らすということ〜
実は僕、オーストラリア滞在中に特派員の真似事をやっていまし
た。特派員といっても大したことはなくて、あるホームページで
「海外での生活をレポートしてください」
という募集が出ていたので、それに応募して、オーストラリアでの
生活をパラリコセッセと書いていただけです。
まぁ僕がラウンドを開始したと共に、レポートの提出はうやむや
になってしまったのですが、僕が出発するにあたり、同じくオース
トラリア特派員の人からメールが届きました。
「私はパースに住んでいるJUNと言います。もしパースに来ること
があるようでしたら、ご連絡ください。一緒に食事でもいかがです
か？ごちそうしますよ」
俺は思ったね。「やったね」ってね。「きたぞ！」ってね。
「食うぞ！」とも思ったね。最初にメールを頂いた時は、シドニー
で人並みの食事を摂っていたので、それほどありがたみはなかった
けど、ラウンドに出てからどんどん悪くなっていく食生活。もう
メールを送れる環境に到着するたびに、
「パースについたらすぐにご連絡いたします」
「お会いできるのを楽しみにしております」
「○日後には到着しそうです」
なんてメッセージを送信したもの。
挙句の果てには
「なにご馳走してくれるの？わんわん！」
なんて文章を書いたような書かなかったような。まぁラウンド中も
せっせとメールをした甲斐がありまして、パースに到着するなりJUN
さんに電話。早速お会いしてお食事でも、と言うことになりました。
まあイキナリ食事と言うのもなんなので、JUNさんの家にお邪魔し
ました。するとオーストラリア人の奥さんKelliと、娘のHannah
（ハナ）ちゃんがお出迎え。なんとJUNさんは国際結婚をされてい
る人でした。そして奥さんきれい！ハナちゃんは可愛い！そして家
でかっ！
JUNさんはパースで飲食店を経営しているらしいのだが、なかなか
大きな家にお住まいだった。まぁオーストラリアでは普通なのかも
しれないけど、日本ではなかなかこんな家は建てられませんぜって
感じの家だった。心底憧れる。そして幸せそうな家庭に見えた。
シドニーでホームステイをしている時だけどさ、ステイ先の家族
に質問をしたことがあるんだ。
「幸せかい？」
ってね。どうしてそんなことを聞いたのか忘れちゃったけどさ。け
どね、そしたら間髪入れずに答えが返ってきた。
「もちろん幸せよ」
僕にはそれがとても新鮮だった。まぁ幸せといっても、色々と嫌な
こともあるだろう。些細なことで誰かと喧嘩することもあるし、社
会に対して不満を持つことも。けどステイ先の家族は、それらのこ
とを全部含めて幸せと言っている様に聞こえた。
日本に住んでいる人で、僕の問いに対して「もちろん幸せ」と言い
切れる人っているのかな。色々考えた上で「幸せかな…」なんてい
う人が大多数ではないだろうか。こうな風に思ってしまうのはなぜ
だろう。日本の社会がそう言わせてしまうのか、もしくはオースト
ラリアの気候が人をハッピーにしてくれるのだろうか。
雑談を終えてからJUNさんの車で、ちょっと値段が張りそうな焼肉
屋さんに行った。
「今日はおごって上げるからさ。腹いっぱい食べなよ。ラウンド中
はろくなもの食べてないんだろう？」
JUNさんはそう言いながらニッコリと微笑んだ。そして僕の心はJUN
さんの優しさに鷲掴みにされ、大粒の涙をこぼした。あふれる涙が
頬を伝って、肉を焼く鉄板で蒸発する。嗚咽を漏らしながら、僕は
牛肉とご飯を口の中に頬張った（嘘）。
ディナーを終え僕とJUNさんは別れた。JUNさんは「また機会があ
ったら会おうな」と言ってくれた。彼にも色々あるとは思うが、幸
せそうに見えた。現在、奥さんのKelliのお腹には二人目の子供がい
ると言っていた。
僕はこのラウンドが終了する頃、ワーキングホリディビザの期限が
切れる。僕は日本に帰って何をするんだろう。オーストラリアにい
続ける方法はないのだろうか。宿への帰り道、僕は自分の将来につ
いて考えた。
宿に到着すると、ベッドの上で聡が日本の小説を読んでいた。
「いま、帰りましたよ。今日はおごりで焼肉食べちゃいましたよ。
聡は今日、何を食べたんですか？」
「いつも通りだよ」
「いつも通りって何ですか？」
「いつも通りはいつも通りだよ」
「…」
「…」
「…」
「…」
「ブッ！」
聡が屁をこいた。聡が意識的に屁をこく時は、悲しんでいる時だ。
聡も誘ってあげればよかった。悪いことをしたなと思った。
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