〜てぇへんだ！底辺だ！〜

　パースでの宿泊場所であるR.B.P.（ライダーズバックパッカー）
で、稲中卓球部を読んでいたら声を掛けられた。田中が湖の水を
「飲んでやる！」と豪語する名場面なのになんだろう。

「今晩、R.B.P.でパーティーをやるので、参加してくださいね。一
緒にいる聡さんも誘ってあげてください」

まぁパーティーとは言われたものの、聞いてみると親睦会を兼ねた
飲み会らしい。R.B.P.は日本人だけが泊まるバックパッカーだが、
廊下や庭で会ってもお互い会釈をする程度で、仲良く話し込んだり
することはない。こういう機会を設けてオーストラリアの地で、日
本人同士仲良くなるのは良いことではないか。

　飲み会は翌晩に行われた。その時の総勢は15人ほどだっただろう
か。下は十代後半の若造から五十代のおっさんまで、若い女も4人ほ
どいた。それぞれの顔は見かけてはいたものの、名前はひとりとし
て分からない。そこでまず、オーストラリアに来た経緯やR.B.Pにな
ぜ来たのかなど、自己紹介を交えてひとりずつ発表していった。

「僕は志帆と言います。オーストラリアへはワーキングホリディで
きました。現在シドニー出発でラウンド中。パースでゆっくりして
から東に向けて旅立つ予定です」

なんて感じでね。このような感じで自己紹介は続けられた。

「僕の名前はゴリ男。バナナが大好き。今はラウンド中で、聞いた
感じだと志帆たちと同じコースを辿っているようです」

「僕はハンサム。見るからに女にもてそうですが、狂言癖があるの
でモテ度は人並み。パースにしばらく滞在中。これからどうするか
はまだ決めていません」

「私の名前はケイコ。日本で先生をやっています。私はゴリ男と一
緒にラウンドしています。よろしく」

「私はジャイ子！R.B.P.の炊事を担当しています。ひとり1A$の食費
でおいしいものを作ってあげるのが趣味です」

「俺は河童。頭は禿げていませんが、髪型と切れ長の目、突き出た
唇。それに泳ぎが上手いことからそう呼ばれています」

「うっす。僕は普通君。特に特徴はありません。バイクでオースト
ラリアを一周中です」

15人が車座でソファーや床の上に座り、ビールを片手に自己紹介を
終えた。それからは近場の人と話をしたり、宿に置いてあった将棋
をやったりなど、それぞれがやりたいことをやって楽しんだ。最も
全員、オーストラリアに興味がある連中であり、共通の話題を持っ
た仲間なので、盛り上がらないわけがない。飲んでいる間中、笑い
声が絶えることはなかった。

　しかし時間の経過と共に、自分の部屋へと引き返すものが現れ始
めた。そして聡も腰を上げた

「志帆、俺もそろそろ部屋に戻るわ」
「あ、そうですか。僕はもうチョットいますので、おやすみなさい」
「おう、おやすみ」

気がつくと部屋にいる人間は半数になり、車座は小さくなっていた。
何時かは分からないが0時は過ぎているだろう。食べ物は底をつい
たがビールだけは大量にある状態。山手線ゲームなどをやり、罰
ゲームにビールを飲んだりした。そこにいる全員がヘベレケになっ
ていた。全員が酩酊状態。

そんな中、ケイコが立ち上がった。

「私、ちょっと洗い物してきます」

そう言うとテーブルの上にあった、大皿を持ち上げキッチンへと消
えていった。彼女は酒に強いのか足元はしっかりしていた。そして
数分すると今度は、河童が立ち上がった。

「ちょっと僕、お茶を入れてきます。誰か飲む人いますか？」

何人かが手を上げ、河童が人数を数えると、台所へ向かった。少し
の沈黙が場に流れた後、ジャイ子が待ってましたとばかりに口を開
いた。その言葉はゴリ男に向けられた。

「ゴリ男くんとケイコちゃんって一緒にラウンドしてるじゃない。
ふたりって付き合ってるの？」
「いいや、一緒に旅をしているだけで付き合ってないよ」
「そうか〜。なら良いんだけどさ〜」
「なにが？」

ジャイ子は明らかに言いたいにも係わらず、言っちゃまずいような
演技をしながら口を開いた。

「じゃあさぁ。ゴリ男くんはケイコちゃんのことスキ？」
「いいや。そんなことないよ」
「じゃあさ言うけどさ、この間ねケイコちゃんと河童くんが、繁華
街で並んで歩いてるの見ちゃったのよ。私てっきりケイコちゃんと
ゴリ男くんは付き合ってると思ってたから、ヤバイと思って声掛け
なかったんだけどね〜」

　その時、ハンサムが立ち上がった。

「お茶遅いね。ちょっと見てくるよ」

　立ち上がるハンサムを横目で見ながら、ゴリ男はジャイ子との会
話を続けた。

「へぇ〜そうなんだ。いいや全然気になんないよ。どうぞご勝手に
という感じ」

　とはゴリ男は言っていたが、僕から見るとケイコは可愛い人だっ
た。ゴリ男が何も思っていないのは不自然に感じられた。まぁこの
状況で好きだとは言えないだろうけど。ジャイ子は話を続けた。

「私がふたりを見たのってさ、河童くんがR.B.P.に来た初日だった
のよ。なのにふたりは初対面じゃないような感じでさ、なんでかな
ってね」

その後もジャイ子は話を続けたが、僕はうわの空だった。お茶を飲
みたいな〜と思っていたのだ。お茶を見に行ったハンサムが帰って
こない。お茶を煎れに行った河童も戻らない。ケイコも戻ってこな
い。不思議に思い席を立とうとしたその時、ハンサムが戻ってきた。

「みんな、落ち着いて聞いてくれ。大変なことになった」
「え、一体どうしたの？」
「河童とケイコが洗濯機置き場ではじめようとしている！」
「うそ〜」

全員の目がギラリといやらしく輝き始めた。