〜てぇへんだ！底辺だ！−Rloaded−〜

　ハンサムの言葉で全員の頭がフル回転を始めた。洗濯置き場で、
イチャつくカップルを見る機会なんて、めったにないチャンスだ。
全員の本能は、その行為を見たいと言っている。しかし愛し合うふ
たりを覗くなんてゲスだという理性も僕たちにはある。明らかに重
さの違う本能と理性を、僕たちは天秤に掛けようとしている。

だが全員の喉仏が大蛇の腹がうねる様に動いた時、ひとりの男が立
ち上がった。

「行こう。覗きに」

彼の声は小さかったが、全員の心を鷲掴みにして、本能を受け止め
ていた天秤の皿を押し下げた。勇気ある言葉を発した彼の名は志帆。
そう俺だ！

全員が僕の目を見つめ、無言で大きくうなずいた。さぁ行こう！僕
たちのネバーランド（洗濯機置き場）へ。そこにマイケルはいなく
とも、似たようなことが行われているに違いない。しかし男たちが
立ち上がり行動を開始しようとした時、ひとりの女が目の前に立ち
はだかった。

「駄目だよ！そんなの。覗いちゃ可哀想だよ！」

　その女の名はジャイ子。ここに本能よりも理性の天秤を下げた女
がいた。さっきまで下世話な話を嬉々としてしていたのに、いきな
り良識派ぶるとは何たることか。僕たちは信念（ノゾキ）を貫くた
め、彼女への説得を始めた。

「本当は一緒に覗きたいくせに何を言ってるんだよ！」
「そんなことないもん！」

「大体、考えてもみろよ。台所に洗い物をしに行った女と、お茶を
煎れに行っただけの男が何分戻らないんだよ。俺たちはふたりが心
配で様子を見に行くだけなんだよ」
「さっき覗きに行くって言ったじゃない！」

「俺は違うよ。ふたりのことなんて全然心配じゃない。俺が心配し
ているのは急須のことさ。俺は早くお茶を飲みたいんだよ。たぶん
河童は急須を持って洗濯機置き場に行ったんじゃないかな。だから
俺は急須を覗きに洗濯機置き場へ行ってくるよ」
「おバカ！」

　それぞれがない知恵を絞って彼女への説得を試みたが、上手くい
かなかった。彼女のことを放っておいて行こうともしたのだが、大
声を出すと脅されていたので、それも出来なかった。しかし僕が説
得に加わったら、彼女は簡単に落ちた。

「そもそもさ、覗いたら可哀想という発想がおかしいよ。世の中に
はさ、覗かれることを喜びと感じる人たちもいるんだしさ」
「そういう人もいるかもしれないけどさ」
「彼らもこれだけ長い間洗濯置き場にいたらさ、俺たちが怪しんで
いるのに気がついているって。それでも戻ってこないというのは、
彼らは俺らが覗きに来るのを待ってるのかもしれないよ」
「そうなのかな…」
「ね、俺たちが覗きに行ってあげないと、彼らも戻るに戻れないよ」
「うん…」
「じゃあ行ってくるからね」

いま思うと支離滅裂な展開だと思うが、全員酔っ払っていたので、
どうにかなっただけなのかもしれない。ジャイ子をソファに座らせ
て、僕たちは台所のほうへ向かった。その後ろで、再びジャイ子の
声が聞こえた。

「やっぱりそれっておかしいよ！どうなっても知らないからね！」

　僕たちは彼女の発言をテッテ的に無視して台所へ。R.B.P.の台所
の窓からは裏庭を見渡せるようになっている。そしてシンクの横に
は、裏庭へ出入りできるドアがついている。僕たちは音を立てない
ようにドアを明け、裏庭へと続く階段を下りる。階段のすぐ右手に
は洗濯機置き場がある。

ブロック塀の上にトタン屋根を載せただけの洗濯機置き場。僕たち
の前には、静寂に満ちた裏庭がある。しかし確かに洗濯機置き場に
何かがいる。僕たちは音を立てないように、裸足のまま裏庭の芝生
を踏みしめた。

　聡が撮影したR.B.P.の裏庭です。台所のドアを開けて撮影したも
のと思われます。写真の右端に写っている金網がドアかな。そして
右下に見えるトタン屋根が、洗濯機置き場です。ここで河童とケイ
コは…。男たちはその行為の目撃者になるべく、抜き足を運びます。