〜悪魔の木〜
僕たちはキャサリンから進路を西に向け、西オーストラリア州の
カナナラ（読み方はよくわからない）の町を目指した。この州の北
部分はキンバリーという。オーストラリア最後の秘境と呼ばれてお
り、バングルバングルという奇岩の集まりがある場所として有名だ。
（詳しくは下記リンク）
そしてサン＝テグジュペリが書いた「星の王子様」に出てくるバ
オバブの木が見られるのもココ。「悪魔の木」という別名があり、
木のてっぺんが根っこのようになっているため、悪魔が逆さまに植
えたという話がある。だが名前とは裏腹に乾燥地にありながら木の
幹に大量の水分を蓄えているので、アフリカでは象の水分補給に役
立っているらしい。
象がいないオーストラリアでは、なんの役に立っているか。僕の知
る限りでは何の役にも立っていない。落書きの標的になっているだ
けだった。車の運転を聡に押し付けて、助手席でぼんやりしている
と次々あらわれる傷ついたバオバブの木。さすがに日本語はなかっ
たがハートマークの中にＬＯＶＥと書かれたものや、ウィスキーの
名前が書いてあるものがあった。（木の形がボトルに似ている）
日頃から自然を愛してやまない聡はご立腹。「責任者出てこ〜い」
と僕の知らないギャグ？を飛ばして自然保護を訴えていた。一方の
僕はカメラを取り出して、「落書きがない木を探して！探して」と
時速９０ｋｍで飛ばす車の中でお願いしていた。
〜小さな出会い〜
カナナラについた僕と聡は、ＹＨＡを見つけて夕食を済ますと２
段ベットの上下に分かれて寝転んだ。部屋はバングルバングルを見
に来た人だろうかほぼ満員。中には日本人のカップルもいて、僕の
斜め向かいのベットで上下に分かれて寝ていた。
いつもなら運転に疲れてすぐに睡魔が襲ってくるのだが、この日は
ウトウトするばかりで寝付けない。それというのも泊まった部屋の
クーラーがガラガラ音を立てるだけで、蒸し風呂状態だったからだ。
部屋にいる何人かは外に涼みに出て戻ってくるということを繰り返
していた。日本人の女の子も出たり入ったりを繰り返す。
僕は夜中の２時を過ぎても眠れなかったので、タバコを吸いに外へ
出た。庭にはテーブルと二人がけの椅子、一人がけの椅子が二つ置
いてある。一人がけの椅子に腰を掛けながら紙タバコに葉っぱとフ
ィルタを巻いて、星を見ながら一服。今後の予定や旅が終わった後
のことなどをぼんやり考えた。
タバコの火が消えかけたとき、部屋から人が出てきた。同じ部屋
にいた日本人の女の子だった。彼女はごく自然に僕のほうに歩いて
きて、二人がけの椅子に座った。
「一本もらって良い？」
僕はマールボロを２本巻いて１本を彼女に渡し、二人でタバコを吸
った。そして出身地や目的など旅先で会う日本人特有の話をした。
彼女の名前はカオル。今回が２度目のオーストラリアで、一度目は
シドニーからパースまでワゴンを借りて旅行をしたが、それでは物
足りなかったらしい。今回はパースから出発して東を目指すそうだ。
パースから来たならこれからのおすすめスポットでも聞いておくか。
「ここから西ってどこが良い？」
「ブルームはもちろん行くんでしょう？」
ブルームとは月の階段で有名な場所だ。もちろん行く。満潮時の
海面が水平線から上る満月に照らされて、月へ伸びる階段のように
見える場所だ。
「あそこは月への階段が有名だけど、近くの海岸はヌーディストビ
ーチになってるのよ。あそこもオススメね」
「ヌ・ヌーディストビーチ！」
日本にいた頃に噂で聞いていた。外国のどこかにあるというヌー
ディストビーチ。そこでは男女が手をつないで、ブラブラさせなが
ら走り回ったりするという破廉恥な場所だ。悔しい！
「カオルはそこに行ったの？」
「もちろん行ったよ」
「ブラブラさせながら？」
「あそこに行くとね、服を着ているほうが逆に恥ずかしいんだよ。
みんなが裸なのに一人だけ服を着ているのは変。銭湯に行って水着
つけてるようなものだよ」
「彼氏も真っ裸？」
「うん。おじいちゃんとかいたけどみんな裸。ちなみに彼氏じゃな
いけどね」
「そうなんだ。彼氏じゃないんだ」
「あの人は前の旅行で会った人で、彼氏っぽいだけだよ」
「そうなんだ…」
彼氏っぽいというのはどういう意味なんだろう。まだ付き合って
いないのか。それとも別れかけだけど、仕方なく旅を続けている関
係なのだろうか。オーストラリアをカップルでラウンドして、終わ
ったときは二人別々という話はよくある。もしくは「俺を誘ってい
るのか？」という考えもよぎる。「あの人は彼氏じゃないのよ。気
にしないで私を誘って」という考えだ。
この子は僕が外に出た後、数分で部屋から出てきた。そして面識が
ない男のそばに座り、１時間近く話をしている。夜中の２時過ぎに。
寝ぼけた頭が疑惑を確信に変えてしまった。「この子は俺を誘って
いる！」
ふにゃけた頭をフル回転。作戦Ａを思いついた。もう一本タバコ
を作って彼女にすすめよう。そしてあげるふりして彼女の椅子に座
る。そこからすべてをはじめよう！これならスマートで怪しまれる
ことはないはずだ。
弄んでいたライターから手を離し、テーブルの上にある紙タバコに
手を伸ばした。しかしその時。
「それじゃあ私部屋に戻るね。バイバーイ」
タバコに伸ばした手は止まらなかった。
「じゃあ俺もう一本吸っていくから。おやすみ〜」
「おやすみー」
いつもより多めに葉っぱを詰めたタバコに火をつけた。星がいつ
もより瞬いて見える。部屋に戻ると彼女は彼氏っぽい男と同じベッ
トに寝ていた。横目で見ながら自分のベットに戻った。その夜は蒸
し暑い部屋の中で、もぞもぞと動く彼女たちを見ながら眠った。
バングルバングル
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad/8244/top_bi.html
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